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近代ピアニストの系譜(1)

鍵盤音楽を大成した大バッハの次男エマヌエルは『正しいクラヴィーア奏法』(1753年)を出版、曾孫弟子メンデルスゾーンに師事した最長老ライネッケによるシューマンの幻想小曲集・第3曲「なぜに」Opus 12/3(1905年・Welte 168)は穏やかに情を紡ぎます。孫弟子ゴドフスキによるショパンのノクターン第1番Opus 9/1(1928年・Collumbia L-2165)で感情を抑えた淡い語り口です。門人ルンメルによるリストの二つの伝説第1番S. 175/1(1944年・Deutsches Rundfunk)やバッハのコラール編曲BWV 22/5(1948年・Radio Suisse Romande)は純粋な音色により味わいを深め、スメテルリンもショパンのノクターン第17番Opus 62/1(1954年・Philips ‎G 05318 R)で穏やかな低音と情感ゆたかな旋律で和音が解決する節目を弱音にして印象を深めました。

ブゾーニはバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻第1曲BWV 846(1922年・Columbia L-1445)をしなやかに弾き、ショパンの前奏曲Opus 28/7・練習曲Opus 10/5の連続演奏(1922年・Columbia L-1470)を美しく曲の間をつなぎました。門人ガンツはリストの愛の夢第3番S. 541/3(1918年・Duo-Art 6081)で内声を歌わせました。フロイントはブラームスのソナタOpus 5(1953年・Remington R-199-109)を絶妙な楽節の間合いによる作者の内面を捉えた真摯な姿勢により、ショパンのワルツ集(1952年・Plymouth P-12-125)の特に第12番Opus 70/2で慈しみながら弾きました。クヴァスト=ホダップによるスカルラッティのソナタK. 2, 450, 125(1933年・Electrola EH-832)は、ハスキル(1951年・Westminster WL-5072)を思わせる粒ぞろいのタッチが聴かれます。ペトリはベートーヴェンのピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」Opus 106(1954年・Westminster XWN-18747)を安定した低音の上で温かみある音色で滔々と演奏しました。シロタはショパンのワルツ第12番Opus 70/2(1952年・放送録音)でフロイントのよう間合いを取り、語りかけるように弾きました。

エマヌエル・バッハ門下フォルスターの孫弟子ベネットに師事したマッセイは練習組曲Opus 16(1933年・Columbia DX-444)で流麗なタッチと強弱表現をしました。門人ボーエンもショパンのバラード第3番Opus 47(1925年・Vocalion X-9666)でパハマンを思わせるビロードのように美しい粒揃いの音色を奏で、シャーラーはショパンの練習曲Opus 25/6(1933年・Columbia DB-1348)で師譲りのしなやかな音色を聴かせました。エルツ門下ロジェ=ミクロスは、ショパンのワルツ第6番「子犬」Opus 64/1(1905年・Fonotipia 39254)を分散和音を乾いたタッチで奏で豪快に演奏しました。プレイエルの深みある音色を好みました。

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Carl Reinecke
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Ferrucio Busoni

バッハ門下ホミリウス→ヒラー→ネーフェ→ベートーヴェン→ツェルニー→リストと継承され、門人クリントヴォルト系統のデュモンは深い打鍵により重厚な音で強弱表現が豊かであり、ハイドンのソナタ第40番Hob. XVI: 40(1953年・Concert Hall Society CHC-18)で含蓄に富んだ心の奥に語りかける真摯な名演を残しました。ラマン門下メロはリストのハンガリー狂詩曲第4番S. 244/4(1926年・Victor 1155)を粒の美しい音でしっとり聴かせ、ブラッサン門下サペルニコフは即興円舞曲S. 213(1925年・Vocalion A-0266)では美しい音色を味わえます。チャイコフスキーの協奏曲Opus 23(1926年・A-0259~62)も録音しました。

リスト門下メンターはため息 S.144/3(1905年・Triphonola 53788)で豊かな強弱表現により速度を変える名人芸、ティマノヴァはシュローツェルの演奏会用練習曲Opus 1/2(1907年・Welte 1384)で息が長い歌を聴かせます。

フリードハイムはリストのソナタS. 178(1905年・Triphonola 51890~91)やハンガリー狂詩曲第6番S. 244/6(1912/13年・Columbia A-5491)をきめ細かな音色と低音を響かせる大きな器を感じさせ、アンゾルゲはヴォロニンツェの落穂拾いS. 249/2(1928年・Parlophone P 9310)で穏やかな歌を聴かせ、効果的な低音で音楽を推進させました。モーツァルトのソナタ第10番・緩徐楽章KV 330/IIで内声を端正に演奏して静謐さを深めました。

ド・グリーフはリストの協奏曲第2番(1930年・HMV DB-1645~47)で美しい音色と流麗なタッチで叙情的な雰囲気を醸しました。グリーグの協奏曲Opus 16(1927年・HMV D-1237~40)で豊かな音色を聴かせます。ショパンの華麗なる大円舞曲Opus 18(1926年・HMV D-1237~40)やモシュコフスキのワルツOpus 34(1929年・HMV E-563)からも優雅な気質が分かります。ローゼンタールはリストとショパンの高弟ミクリに師事して、ショパンのベルスーズOpus 57(1929年・Odeon 173-164)では凛とした歌を聴かせ、ノクターン第2・8番Opus 9/2, 27/2(1936年・HMV DB-2926)でミクリ直伝の装飾句を弾きます。リストのハンガリー狂詩曲第2番S. 244/2(1929年・Telefunken F-468)や愛の夢第3番S. 541/3(1929年・Telefunken F-469)では、しなやかな速度や強弱の変化で絶妙な情感を生み、旋律の輪郭を粒揃いの美しいタッチで描きました。

ザウアーは愛の夢第3番S. 541/3(1925年・Vox 06264)やコンソレーション第3番S. 172/3(1938年・Columbia LX-807)で打鍵の深さを変え、優しく沈み込み、多彩な表情を引き出し、リスト(1938年・Columbia LX-789~91)やシューマン(1940年・Opus MLG-78)の協奏曲で管弦楽と張り合う迫力を聴かせました。シュターフェンハーゲンはハンガリー狂詩曲第12番S. 244/12(1905年・Welte 1033)でピアノを交響楽のように扱い、装飾的走句を入れ、楽節毎にリズムや速度感を変え、激情を歌い上げ、ライゼナウアーもハンガリー狂詩曲第10番S. 244/10(1905年・Welte 324)は弱音が美しくリストが弾いた即興句を入れました。ジロティはハンガリー狂詩曲第12番S. 244/12とため息S. 144/3の録音断片(1930年代)で磨かれた音色と強弱や速度の変化により、大胆さと繊細さを兼備しました。

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2. Alexander Siloti 3. Arthur Friedheim 4. Emil von Sauer 5. Bernhard Reisenauer 7. Moriz Rosenthal 10. Franz Liszt

ダルベールはソナタS.178(1913年・Welte 2987~88)と巡礼の年「泉のほとりで」S. 160/4(1912年頃・Odeon 76565)の高音部をしなやかに軽く、低音部を響かせ重くして味を付けました。ベートーヴェンの協奏曲第5番「皇帝」第1楽章Opus 73(1930年・Radio 329~33)やソナタ第18番・スケルツォOpus 31/3,II(1922年・Grammophon 66029)で速度を急激に変化させ、端正で多彩な音色で楽節を弾き分けました。ヴァイスはハンガリー狂詩曲第12番(1924年・Parlophone E-10181)やブラームスのハンガリア舞曲第7番(1918年・Parlophone P-1109)を美しく乾いたタッチで良い趣味を聴かせました。リーブリングはショパンの前奏曲Opus 28/7・ワルツ第6番「子犬」Opus 64/1とリストのラ・カンパネラS. 141/3の連続演奏(1920年・Parlophone P-1763)でぱらぱらとした美しいビロード・タッチで情緒ゆたかで優雅な演奏をしました。

ダ・モッタはリストの巡礼の年「エグローグ」(1928年・Pathé X-5451)を乾いたタッチで歌わせながらおちゃめに弾き、死の舞踏S. 126(1945年・IPL 108)で音色の美しさが聴けます。ラモンドの愛の夢第3番S. 541/3やため息 S. 144/3(1936年・Electrola EH-999)を優美なタッチで繊細な情のひだを描き、ベートーヴェンのソナタ第21番「ワルドシュタイン」Opus 53(1930年・HMV DB-1983~35)で内的洞察の深さを示します。リストについて証言(1945年・BBC)しました。弟子ニレジハージはリストの生まれ変わりと信じ込み、超絶技巧練習曲「マゼッパ」S. 139/4(1924年・Ampico 6370)で難曲を余裕で弾き、バラード第2番S. 171/2(1972年・Desmar IPA-111)で壮大さと繊細さを聴かせ、二つの伝説第2番(1973年・Wollensackテープ)やハンガリー狂詩曲第3番(1978年・Columbia M2-34598)で荘厳な重低音で圧倒して陰鬱な世界に引きずり込みます。

クラウゼ門下フィッシャーは、バッハの平均律クラヴィーア曲集BWV 846-893(1933~36年・HMV)を温雅な音色で紡ぎ、トーマン門下ドホナーニは晩年にシューマンの子供の情景Opus 11(1951年・Remington R-199-43)やベートーヴェンのソナタ第30番Opus 109(1960年・Everest SDBR-3109)を慈しむように弾きました。バルトークはスカルラッティのソナタK. 536, 212, 537, 70(1929年・Bartok 903)や自作のミクロコスモスSz. 107(1951年・Columbia ML-4419)で俊敏で痛快なリズム感を聴かせました。

リスト門下の演奏から、リスト本人の演奏は、粒ぞろいで煌びやかで滑らかな音色により、速度や強弱の変化を自在に駆使して感情を自然に出して、即興で激しい上下行、速度や強弱の対比により、ピアノを管弦楽のよう扱い、音域が広く壮大な音楽をなす一方、叙情あふれる繊細さを持つと分かります。リストに指導を仰いだ門人たちによる本物の演奏は人類の至宝です!

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Bernhard Stavenhagen
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Eugen d’Albert

KFアーカイブを今後ともよろしくお願い申し上げます。

長文にお付き合い下さり、誠にありがとうございました。

平成28年4月22日

特定非営利活動法人 KFアーカイブ会長 中西 泰裕

近代ピアニストの系譜―ブゾーニ・マッセイ・ヘルツ・リスト門下

Johann Sebastian Bach [1685-1750] ヨハン・ゼバスティアン・バッハ

 Carl Philipp Emanuel Bach [1714-1788] エマヌエル・バッハ

  Carl Friedrich Christian Fasch [1736-1800] ファッシュ

   Carl Friedrich Zelter [1758-1832] ツェルター

    Felix Mendelssohn [1809-1847] メンデルスゾーン

     Carl Reinecke [1824-1910] ライネッケ

      Ernst Rudorff [1840-1916] ルドルフ

       Leopold Godowsky [1870-1938] ゴドフスキ

        Walter Rummel [1887-1953] ルンメル

        David Saperton [1889-1970] サパートン

        Jan Smeterlin [1892-1967] スメテルリン

        Abram Chasins*

      Edvard Grieg [1843-1907] グリーグ

      Ferruccio Busoni [1866-1924] ブゾーニ

       Maria Carreras [1877-1966] カレーラス

       Rudolph Ganz [1877-1972] ガンツ

        Moissaye Boguslawski [1888-1944] ボグスラウスキー

       Etelka Freund [1879-1977] フロイント

       Frida Kwast-Hodapp [1880-1949] クヴァスト=ホダップ

       Egon Petri [1881-1962] ペトリ

       Percy Grainger [1882-1961] グラインジャー

       Michael Zadora [1882-1946] ザドラ

       Leo Sirota [1885-1965] シロタ

       Erwin Bodky [1896-1958] ボードキー

       Guido Agosti [1901-1989] アゴスティ

        Maria Tipo [1931-] ティーポー

       Rudolf Serkin [1903-1991] ゼルキン

       Carlo Zecchi [1903-1984] ゼッキ

  Emanuel Aloys Förster [1748-1823] フォルスター

   Cipriani Potter [1792-1871] ポッター

    William Sterndale Bennett [1816-1875] ベネット

     Tobias Matthay [1858-1945] マッセイ

      York Bowen [1884-1861] ボーエン

      Irene Scharrer [1888-1971] シャーラー

      Myra Hess [1890-1965] ヘス

      Harriet Cohen [1895-1967] コーヘン

      Kathleen Long [1896-1968] ロング

      Denise Lassimonne [1903-1994] ラシモンヌ

  Jan Ladislav Dussek [1760-1812] ドゥシーク

   Hélène de Montgeroult [1764-1823] モンジェルー

    Louis-Barthélémy Pradher [1781-1823] プラドハー

     Henri Herz [1803-1888] ヘルツ

      Louise-Aglaé Massart [1827-1887] マサール

       Aimée Marie Roger-Miclos [1860-1950] ロジェ=ミクロス

       Clotilde Kleeberg [1866-1909] クレーベルク

 Gottfried August Homilius [1714-1785] ホミリウス

  Johann Adam Hiller [1728-1804] ヒラー

   Christian Gottlob Neefe [1748-1798] ネーフェ

    Ludwig van Beethoven [1770-1827] ベートーヴェン

     Anton Halm [1789-1872] ハルム

      Julius Epstein [1832-1926] エプシュタイン

       Gustav Mahler [1860-1911] マーラー

       Richard Epstein [1869-1919] エプシュタイン

     Carl Czerny [1791-1857] ツェルニー

      Franz Liszt [1811-1886] リスト

       Hans von Bülow [1830-1894] ビューロー

        Karl Heinrich Barth [1847-1922] バルト

         Richard Strauss [1864-1949] リヒャルト・シュトラウス

         Arthur Rubinstein [1887-1982] ルビンシュタイン

         Wilhelm Kempff [1895-1991] ケンプ

         Aline van Barentzen*

         Heinrich Neuhaus*

       Karl Klindworth [1830-1916] クリントヴォルト

        Ernst Jedliczka [1855-1904] イェドリツカ

         Georg Bertram [1882-1941] ベルトラム

          Lilly Dymont [1911-2006] デュモン

        Édouard Risler*

       Lina Ramann [1833-1912] ラマン

        Yolanda Mérö [1887-1963] メロ

       Louis Brassin [1840-1884] ブラッサン

        Wassily Sapellnikoff [1867-1941] サペルニコフ

       Giovanni Sgambati [1841-1914] ズガンバーティ

       Sophie Menter [1846-1918] メンター

       Rafael Joseffy [1852-1915] ジョセフィ

       Martin Krause [1853-1918] クラウゼ

        Edwin Fischer [1886-1960] フィッシャー

        Rosita Renard [1894-1949] レナルド

        Claudio Arrau [1903-1989] アラウ  

       Vera Timanova [1855-1942] ティマノヴァ

       Arthur Friedheim [1859-1932] フリードハイム

        Felix Blumenfeld [1863-1931] ブリューメンフェルト

         Simon Barere [1896-1951] バレル

         Vladimir Horowitz [1903-1989] ホロヴィッツ

         Iso Elinson [1907-1964] エリンソン

         Nadezhda Golubovskaya*

         Heinrich Neuhaus*

         Maria Yudina*

       Richard Burmeister [1860-1944] ブルメスター

       Conrad Ansorge [1862-1930] アンゾルゲ

       Arthur de Greef [1862-1940] ド・グリーフ

       Alexander Lambert [1862-1929] ランベルト

       Moriz Rosenthal [1862-1946] ローゼンタール

       Emil von Sauer [1862-1942] ザウアー

        Lubka Kolessa [1902-1997] コレッサ

       Bernhard Stavenhagen [1862-1914] シュターフェンハーゲン

       István Thomán [1862-1940] トーマン

        Arnold Székely [1874-1959] セーケイ

         Louis Kentner [1905-1987] ケントナー

         Edith Farnadi [1921-1973] ファルナディ

        Ernő Dohnányi [1877-1960] ドホナーニ

         Edward Kilenyi [1910-2000] キレニー

         Ervin Nyíregyházi*

        Béla Bartók [1881-1945] バルトーク 

        Etelka Freund*

       Alfred Reisenauer [1863-1907] ライゼナウアー

       Alexander Siloti [1863-1945] ジロティ

        Aleksander Goldenweiser*

        Konstantin Igumnov*

       Eugen d'Albert [1864-1932] ダルベール

        Max von Pauer [1866-1945] パウエル

         Dirk Schäfer [1873-1931] シャファー

        Wilhelm Backhaus [1884-1969] バックハウス

       Josef Weiß [1864-1945] ヴァイス

       Georg Liebling [1865-1946] リーブリング

       José Vianna da Motta [1868-1948] ダ・モッタ

       Frederic Lamond [1868-1948] ラモンド

        Ervin Nyíregyházi [1903-1987] ニレジハージ

皆さま、お元気ですか。READY FOR?の新着情報を更新いたしました。
今回はブゾーニ・マッセイ・エルツ・リスト門下の系統を概観しました。
リストに指導を仰いだ門人たちによる本物の演奏は人類の至宝です!
次回はクラック・ダッハス・レシェティツキ・ドール門下を概観します。
今後ともKFアーカイブに温かいご理解を何卒よろしくお願い申し上げます。
フランツ・リスト最晩年の愛弟子フレデリック・ラモンドです。
クララ・シューマンやブラームスと親しく、音楽史の生き証人です。
リストの〈演奏会用練習曲 第3番〉《ため息》(S.144/3)を好んでよく弾きました。
打鍵の深さや緩急の付け方に心を配り、情感が深められております。
当曲を1927・36・41年と HMV・Electrola・Decca社に録音、
極めつけは、自動ピアノ用ロール(Welte・Duca社)も2種類あります。

古典音楽を無償公開するデジタルアーカイブを充実させたい!2016/04/22

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