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KFアーカイブシステムによる古典音楽の無償公開

KFアーカイブ(https://www.kf-a.org)は系譜により構築されるアーカイブから名付けられました。KFは系譜であり、ロゴはKFの合字です。古典は先人の試行錯誤の蓄積です。古典ギリシア語でアーカイブἀρχεῖονは政府・行政ἀρχήを語根に持ちますから、古典が文化の規範とされたことが分かります。

古典を電子化して無償公開するアーカイブを構築して、学術、文化、芸術の振興を図る文化事業を推進して、また、古典に遺された先人の知恵を分析して応用して物事を思考する手法を伝える教育事業と補完して、文化が趣味や娯楽などとして一方的に享受される段階ではなく、物事の本質を特定して方策を発見して、社会で主体的に行動する人間性・創造性を育むべく構想されました。

平成24年4月15日に設立、同年8月14日に特定非営利活動法人として登記されました。平成25年5月4日から古典音楽を無償公開するシステムを運用してまいりました。非営利法人は様々な方々や組織と協働しやすく、今後は幅広く教育機関・研究機関・市民団体とも連携を取りながら綿密に拡充してまいります。歴史的音源の文化的価値を研究者や愛好家のみならず、広く社会に周知して、また、文化が教育を通じて社会に与える福利に寄与してまいります。歴史的音源には録音状態を補って余りある味わいと趣きある演奏が残されます。音楽家や研究者の方々もそうした資料を無償で公開して、教育利用や学術利用をする組織として機能して、貴重な音源が散逸しないよう、皆さまと協働して活動してまいりました。

古典には数千年の長期間に亘り、過去の人類が直面して社会が経験した事件が豊富に記録されますから、現実の事例から探求する機会を提供します。先人が解決した道筋や成功の可否など結果も知り、現実の事件を基に考えることができます。我々が生きられる時間は百年そこそこですから、直面できる体験は自ずと限られます。事実と常に離れず、観念の遊びに耽らず、今ここで何をするか考え続けるほど強い人はございません。古典に記載された過去の事実や目前の事実から熟慮を重ねてこそ、未来を如何にして開拓する道を選び取れます。現実に準拠して行動する訓練ができます。

先人が苦労の末に新しい発見や創造を為し得ました。結果の知識ではなく先人がどう苦労して発見したかを追跡してこそ、人間がいかに発見するか認識されます。天才は初めから天才ではなく、あらゆる経験をして本質を直感して表現できた先人です。学芸にて顕著な足跡を残して示唆を与えた先人は様々な経験から本質を抽出しました。そうした過程を丹念に追跡してこそ、過去を回顧するだけでなく、現在に探求する道や将来に継承する糧となります。

発見された事柄よりも、発見された軌跡こそが大切です。発見以前を追跡することが発見を理解して、発見以後を把握することが応用です。古典には吹けば飛ぶような思い付きを跳ね付ける強い芯が感じ取れます。幾千年の霜雪に耐え、社会の変化や歴史の変遷を経験しながら継承されて受容されてきたからです。人間の本質を直示した発想や内容こそ、あらゆる時代やあらゆる地域に依存しません。

古典に深く学ぶことは、芸術を享受するという次元を遥かに超え、古典に存する先人の思考や発想があらゆる分野や局面で活かされ、人間が生きる姿勢にも大きな影響を与えます。芸術を享受して楽しむ、先人の心得を知るのみならず、先人が残した古典に存する思考や発想を追体験して把握してこそ、それらを自らの考え方として身に付けて用いてゆけます。事物に取り組む際、端緒を見つけ、構築を進めて、他者に伝えて、現実に行う流れは、いかなる局面でも同じ思考によるからです。

いかなる活動も同じ人間が行います。様々な時代や地域で醸成された文化を洗練されて継承された古典に広く深く触れることにより、画一になり安易になる現代社会に於いて、盤石であり根本となる基本姿勢を立てて、物事に当たれる力を身に付けられます。引き出しが多ければ多いほど、考え方が深ければ深いほど、多くの経験が積み重なり、事物を多角的・複眼的・総合的・論理的に把握して、事物の本質を瞬時に把握することができます。

古典を解釈する経験から発想が自然と形成されます。文意を理解して知識を摂取すると、現実の問題に類推して適用して活用して行動する訓練が自然になされます。哲学は物事への純粋な関心から誕生して、様々な観点や道筋から迫りました。本来は技法を身に付けたら、自らで行えなければなりません。思考様式や発想方式が実践で活用されることが大切です。

系譜は全体の構造を映像で表現でき、古典から思考様式や発想方式を抽出して、それらの継承に着目して対象を理解する手法です。情操の涵養や人格の形成に有用です。発想をどう生むか、知見をどう得るか、人生をどう豊かにするかという問題は人の心に根ざしますから、人間に着目した系譜が重要になります。

物事が物事たりえるには、歴史や社会など環境と人間が複雑に関連して成立します。物事を物事として捉えるのみならず、背後に控えている関係性を時間的にも論理的にも把握することが、物事の本質を直に把握して、存在の意義や成立の経緯を通じて、物事を深く理解することになります。

古典を古典として分析するのみならず、古典と古典の密接な関係を把握して、古代から現代まで変遷を理解することは、そのまま現代の社会構造や人間活動を理解することになり、現象的にはめまぐるしく変化するように見える種々の事象に振り回されることなく、本質的に背後にある大きな関わりの中で動いていることが分かります。すると、本質ではない現象に振り回されず、常に骨格を踏まえた上で物事に取り組めます。

アリストテレスも『自然学』(Bekker 184a10)を「およそどんな部門の研究でも、その対象にその原理、原因、または、その構成要素がある限り、我々がその研究対象を知る、学的に認識しているなどとするのは、これらをよく知ってからのことである」と書き出しました。まさにこの動機から人類は原因を探求し続けて、古代ギリシア哲学・中世イスラム科学、西欧中世スコラ哲学・近世ルネサンス哲学で基礎となる発想や観点が蓄積されて、理性的に分析して探求する近代科学が成立して現代に継承されてきました。

多くの要件が重なり合い事物は成立するという事物の理解です。アリストテレスの思考は徹底して原理を探求するという姿勢に貫かれており、その原理を構築して論理を生み出しております。まさに先賢の古典から数行を引用しただけでも、我々が如何に物事を認識するかという探求の極意を見い出せます。以上の認識から、どんな部門を研究するにも、先人と先人、文化と文化の関係性に着目して、人類の活動を理解することが肝要です。

Aristoteles, Physica [Bekker 184a10] Ἐπειδὴ τὸ εἰδέναι καὶ τὸ ἐπίστασθαι συμβαίνει περὶ πάσας τὰς μεθόδους, ὧν εἰσὶν ἀρχαὶ ἢ αἴτια ἢ στοιχεῖα, ἐκ τοῦ ταῦτα γνωρίζειν.

現代社会は急流に巻き込まれた小舟のよう、事物を本質まで真剣に把握していく時間的余裕・教育的環境がなく、社会が社会たりえる所以を把握せず、制度や慣習を踏襲するだけになり、本来の目的や意義が見失い、社会の問題が生まれます。そうした現状を少しでも改善するには、先人の知恵や観点に多く触れて深く考えるしかございません。

古典はどの時代にも最良とされてきた発想が保存され、また異なる観点から現代を見つめ直せる観点を提供します。現代に特有な思考が、現代に特有な問題を生み出しますが、そうした常識に存する落とし穴にも容易に気が付ける端緒を提起されます。人類の軌跡と発想の継承を振り返ること、歴史上・世界中に様々な思考様式と発想方式が存在して、長短があり特色もあることを吟味しながら良い発想を取り入れてこそ、柔軟な思考で自由な発想をなせます。何事でも好奇心と探求心を持ちながら、広く見わたして、深く掘り下げることから、成熟した的確な意見が形成されます。これは芸道に於ける研鑽に通じます。

KFアーカイブは人間の知恵と強靭な意志で社会の問題に切り込む端緒になります。先人が各地で独自に発展させた手法や観点を広く多く集積してこそ、先人の遺産を継承する子孫である我々が、画一的な先入観や常識的な人生観を克服して、多角的な観点を獲得できます。古代ギリシア哲学から中世イスラム科学を経由して伝承したスコラ学の方法、ルネサンスに発達した自然科学の方法、漢字文化圏の直感的に事物の関係を推測する類推の方法、古代インド哲学から伝承した仏教哲学の方法を兼備して整理して、事物と事物の関連性で体系を構築していく方法です。

人類が発見した研究の手法を自在に駆使してこそ、未知の問題を発見して解決できます。博学者や万能人とされる賢人は、上述の手法を要所で適切に活用して、あらゆる学問や芸術の本質を統一的に普遍的に把握しました。賢人の思考には演繹や帰納など科学的方法に加えて、類推(アナロジー)を用いて様々な事物を総合的・多角的に処理して把握する過程が顕著です。

新しい概念が発見されて文化が開拓された事例を仔細に検討することは、先人が思考した過程を追体験することであり、我々が未知の問題を解決していく指針となりえます。発想の根源を遡ると古代ギリシアのユークリッドの『与件』で詳述される「分解・ἀνάλυσις・resolutio」と「合成・σύνθεσις・compositio」に至ります。『原論』の証明における原理を解析する手段です。定理の証明にはどんな「公理・ἀξίωμα・axioma」「定理・θεώρημα・theorema」が前提とされるか(与件)、前提の証明にどのような前提が必要か(分解)、前提をどのように構成して命題を証明するか(合成)です。自然科学の全体の現象を局所の理論に還元して理論を構築して実験で証明する発想は、音楽を観察して作者の意図を把握する際にも斉しく適用されます。根本を支えている発想を認識することこそ、文化の真意を理解することが大切です。

人間の根本である思考様式を公理、発想方式を定理として、人間の知的活動を体系化する過程を体験してこそ、あらゆる分野やあらゆる局面に適用できる探求の手法を獲得できます。哲学は人間の思考の基本だからです。体系化は何段階もの推論で実現されます。相互に存在する関連性に着目して構築するからです。前提から結論を導出して、それが前提となり結論に移行する連続した推論をする多数の段階で体系を構築できます。

哲学は高貴な人間の活動です。事実の探求により、他人のため、社会のため、後世のためになるからです。キンディは『第一哲学に就いて』を「哲学こそが、高雅で高貴な人間の学芸であり、人間の能力の範囲で可能な限り、事物を正しくあるがままに認識することである」で書き始めたよう、偉大な業績は純粋な探求から生まれました。後世に語り継がれた偉人は、他人に感銘を与え続け、自身に感銘を発し続け、人生を生き抜いた傑物です。思考様式や発想方式を活用して、探求や創造が可能となります。探求の実践では精密に分類された理論ではなく、根幹となる思考の様式が大切です。

細則の列挙ではなく、原則の把握が有用です。あらゆる文化やあらゆる分野に於いて、人間の思考様式や発想方式を追究してこそ、本質を瞬時に認識して、根本から末節の知識を理解して導出できます。詳しい研究の蓄積の前で全体を把握して体系を構築する人間が求められます。全体を把握して個別の事象を統合することにより、人類の知見を整理されて把握できます。先人の古典に存する思考の軌跡を把握して、人類の文化がどう発展したか様々な観点から概観して、思考する手順を明確に把握して、創造する方法を明晰に認識できます。

Alkindus, De prima philosophia رسالة الكندي الى المعتصم بالله في الفلسفة الاولى [Risālat al-Kindī ilá al-Mu'ṭaṣim billāh fī al-falsafah al-ūlá] إن أعلى الصناعات الإنسانية منزلة، وأشرفها مرتبة صناعة الفلسفة التي حدها: علم الأشياء بحقائقها بقدر طاقة الإنسان؛ لأن غرض الفيلسوف في علمه إصابة الحق، وفي عمله العمل بالحق، لا الفعل سرمداً، لأنا نمسك وينصرم الفعل إذا انتهينا إلى الحق.

探求や創造は連想から始まります。連想とは或る概念から別の概念を想起して融合することです。事物は関連により成立します。全ての概念は相互に関係しますから、関係を発見してこそ、知見を拡大できます。探求には事実の確認と原理の発見と二つの道があります。両者が調和して全体を把握しながら部分を調査できます。事実の確認は事項を蓄積して知識になり、原理の発見は新規な発想で創造をする知恵になります。先人の思考を記録する古典は発見の感激を伝えます。

我々の常識は先人が探求の末に見い出された事実です。芸術が芸術たりえる基礎には人間の存在がございます。系譜を辿ると発見の瞬間に立ち会えて先人の感激が伝わります。整理された形で認識される事々は、発見された時は全く異なる糸口と過程によります。先人は原因から探求して到達した事実を我々は結果から逆さに見るからです。

同じ古典を目の前にしても事項を見ていく通常の接し方といかなる観点でいかなる推論で発見に到達したか、思考様式や発想方式を辿りゆく関係を読み解く発見した人に寄り添う接し方では全く異なります。探求はある点を調べ上げること、ある点についてあらゆる道を辿りながら捉える道に分かれます。論点がぼやけず論考するには、広い範囲を横断する要点に絞ります。

論題や手法は自身の体験や興味を明確に説明する中で自然と決まります。古典から、どんな観点から、いかに思考をするか、どんな動機から探求するか、観点を見つけ、探求を進めて、発想を生んで、創造を成して、思考を伝える方法を摂取できます。

未知の問題を解決して、新規の創造を構想するには、昔も今も誰でも同じ道を辿ります。古典から思考様式や発想過程が抽出されます。情操を深めて人格が高まることを楽しみとする人物が打ち出されてこそ、社会の問題に立ち向かう基礎が固まります。古典の理解を困難にする要因は前提とされる見識や経験が書き手と読み手で大きく異なることです。しかし、状況の全体を捉えると、言わんとすることが見えてきます。

古典の解釈を通じて、直ちに本質を把握する直観が磨かれ、異なる意見を理解する思慮の訓練になります。解りにくさに挑むことこそ、様々な観点を経由して事物を理解できます。教育は人間の生き方を規定しますから、探究をする訓練をして新たな境地が開かれます。一度しかない人生は、何も感激しない毎日より、様々な対象に関心を示して、探求する方が実り豊かであることは自明です。しかも、探求の過程で重なる思考と深まる洞察により、重要な発見が蓄積して、文化として継承され、人類の文明の基礎を強固なものとなります。

先人の名文や先賢の思考を学ぶことにより、物事に着眼して、論理を展開して、他者に伝達する方法を身に付けられます。先人の意見を吟味して、盤石な意見を形成して、実際に行動してこそ、発想過程や思考様式を使いこなせます。あらゆる社会や組織は、人間や感情が集まり動きますから、文化は目先の利益を生みませんが、学問や芸術を伝える古典に触れることは、人間の感受性や社会性を高め、社会を下支えしております。

文化は精神面のみならず、現実面としても、我々の社会に不可欠であり、成熟した文化が存在には、成熟した社会が前提となります。洗練された文化は、理性と感性が調和した人間性を主眼とします。あらゆる社会の荒波や戦争の惨禍などまで経験しながら脈絡と継承されてきた文化は、確かな知恵と豊かな発想に溢れております。常識や慣例が通用しない荒波の真っ只中には、伝統に腰を据えながら、新たな道を切り拓く人が出てきました。更に文化にはその時代やその地域に生を享けた人間の思考や気質が如実に現れてきます。自然な形で探求され受容されやすい文化には自然な形で表現され記録されやすいです。

芸術や文学などはそれら自体が利益を生まなくても、思考の深さや見識の広さや感性の鋭さや趣味の良さになり、人間性を熟成する訓練となります。現実の経緯を正確に理解して、相手の主張や真意を分析して、適切な結論を導出して、解決するように行動して、他者に応援を要請していく過程でも、人間の思考能力が必要とされます。

相手の発言や交渉の資料を突き合わせると、原因の所在や問題の本質が浮かび上がり、解決の方法や結果の見当が付きます。それは、漢籍を素読して文意を理解すること自体が、そのまま瞬間的に意味を把握する訓練となり、漢文を和文に変換する過程が、そのまま文章を構築する訓練となるからです。漢文は文章の構造が明瞭で概念が的確に指示されますから、思考を明瞭に伝達する訓練になり、撰者の思考を追跡しながら思考の様式や発想の過程を摂取すると、新しい事柄でも別の角度から考えやすく、新しい発想でも豊かな語彙で真意を伝えやすいです。古典を咀嚼して思考を養成する暇もない現代社会には知的な営みが必要です。創造の瞬間を知ることから、創造の瞬間を迎えられるからです。

全ての学芸は人間が存在して成立します。文化情報は遺伝情報のように複製を繰り返します。古来より東洋にある系譜の発想を西洋にある研究の手法に導入すると、個人の業績と文化の発展を調和して現実を把握できます。歴史や文化など、大きな激動も小さな変化の積み重ねの結果です。先人から人間の形質が遺伝するよう、人間の意志も伝承されます。微小変化の確率積分するよう、自然の構造と同様に人類の文化を理解する手法が系譜です。

事物の本性を発見するには、時代を遡ること、時代を下ること、双方から迫ります。音楽に系譜の手法を導入しましたら音楽系譜学Musicogenealogiaという新領域が提案されます。音楽は常に人間の存在と共に根源に存在してきました。民族固有の精神や師弟関係の伝承を如実に現れます。系譜で音楽史を構成して把握してこそ、著名な作曲家の創造の瞬間が同時代的に感受できます。

師匠から弟子へ地下水脈のように伝承された過程で重要な役割を演じた音楽家の多くが埋もれたままです。系譜の発想により歴史を構築すると人間の関係が明瞭になり、意外な人物が意外な役割を演じており、著名な人物に冠せられた発見を無名の人物が担っていた多数の事例が発掘されます。系譜は問題に直面してどう行動していくか方針を立てる幹になります。文化を趣味として楽しむだけでなく、人間の発想が生まれてくる源泉、思考の展開や問題の解決などの経緯を学べます。感性が磨かれ知性が鍛えられ、情操が養われてこそ、物事に取り組む気概になり、経験の引き出しから発想が生み出され、未知の問題に多くの道を見い出して、自由に行動できます。それが人の生きがいとなります。

音楽系譜学Musicogenealogiaという新領域では、師弟関係を史料や伝承に準拠して文化伝承を追跡して正確に綿密に把握されます。過去から現代に下り、現代から過去に遡り、概念が変化しながら継承された連続性を考察します。従来の限定された範囲では決着がつかない問題に解決を与える一つの道としても、系譜という方法が提案されます。

系譜は思考の方法や発想の過程を伝授した人間がその時その場でなした思考を浮き彫りにします。その時その場まで何が受け継がれたかを認識して考察されます。現代の基準で過去の事象を判断してしまいがちですが、ある時点までに継承された技法、ある時点から発展した技法を把握する系譜は、事物を客観的に判断する重要な尺度です。蓄積した技法を応用してこそ、個性が開花します。個性は何に重きを置いて何を用いたかによります。音楽教育でもシリンダーやレコードや磁気テープに記録された巨匠の演奏の意義を作者の観点や思考に準拠して楽譜と演奏が対応して把握することが大切です。音楽家は演奏を楽譜に還元して、解釈の理由を考察して、演奏の秘密を実践できます。実践が理論に支えられて、理論が実践から導かれます。感性と理性を行き来して高まります。実例に即して構造を捉えて古典に通暁すると自然に創造が為されます。

系譜の発想で音楽書法の単位まで綿密に成立した軌跡を考察できます。創造の軌跡を探求して、過去への興味に留まらず、将来を創造する人類の問題としてこそ、過去からの知識が未来への知恵となります。系譜の発想は物事を探求する方法を訓練します。地球上のあらゆる音楽を体験して人類の情感を表現する幅広さと奥深さが養われて柔軟な思考になります。

文化の源流や発展に接して関係性や相違性を様々な観点から明瞭に把握して本質を直観して、一つの流れが見えてきます。ある発想に一貫するあり道理を発見する感覚は、様々な事物から感じ取ることを繰り返して養われます。緻密な理論のみならず、確固たる見識で行動できるようになります。学問研究は資料収集・異本校合・定本作製・内容吟味・全体把握・部分論証・理論形成・結論導出を経て、現在に知られうる事項を満足して説明できる仮説を定めますから、常にどの段階でも修正を要します。探求を繰り返して事実に近づき続ける反復です。

学問の目的は真実の把握であり精進が基本です。直接的な論証が間接的な論証に説得力に勝ります。文献調査と現地調査が調和してこそです。元来は文献資料も現地調査の賜物です。古典の媒体と共に探求方法や思考様式を伝承することがKFアーカイブの目的です。系譜という発想は哲学・科学・美術・芸術などにも敷衍され、KFアーカイブは思考様式や発想過程の基本を認識して社会に貢献する明確な目的で運営されます。人類の思考様式や発想過程を活用するべく、音楽に適用すれば音楽家、哲学に適用すれば哲学者、科学に適用すれば科学者、芸術に適用すれば芸術家になり、適切な局面に柔軟な発想で万能に行動できる人材を養成できます。

系譜は方法です。文化・知識・発想・技術は形態や意義を変容させながら継承されました。人から人へと伝わりますから、関係に着目して構築する系譜はあらゆる分野で探求の基礎となります。時代や場所の特殊性やそれらに依存しない普遍性も認識されます。概念の継承で何が受け継がれて、何が作り変えられるか類型が抽出されます。文化の変遷は伝統の改変とも、次代に順応した工夫とも評価でき、今ここでどうするかという動的な発想から創造の道が開かれます。

常に人間の関わり合いで営まれた軌跡を顧み、立体的思考で様々な道筋から事実を把握して問題を解決して、平面的思考を克服できます。系譜の発想は人間が直面する問題をどう解いてきたか探り、未知の問題に解決を与える方法となりえます。測量で地図を作製するよう、文化の伝承を人間の関係で把握した系譜に作品を配置して音楽史を構築します。研究者の観点から綿密に探求がなされて地図が精密になります。問題に直面して解決を求めて原因を遡ると系譜を追跡することになります。

人間が発想をした過程の類型が蓄積して思考様式や発想過程が抽出されます。多くの実例から試行錯誤を重ねて確かな道が見い出されて理論が整備されます。系譜の発想により長年をかけて大きく成長した高度な文化を把握しやすくなります。既成の分野で既成の方法で調べることではなく、系譜という関係を辿りゆく、新観点を基準にして、新分野が誕生します。系譜として資料を整理するにも従前の手法を導入しながら、系譜の発想は社会で問題の根源を探る観点になります。

師弟の関係など直接的接触、また、継承の切断を含んだ古典や遺産を媒介とした影響など間接的接触に構築できます。系譜の地図に於いて、ある時代に存在する資料の位置が確定して関係を考察して示唆が得られます。系譜を学芸の系統(音楽史、科学史、医学史、哲学史、文学史、書道史など)に適用すると立体的に事物の関係が把握され資料調査に活用して系譜を補強できる反復で構築されます。

研究とは推定して論証する連続です。系譜の発想により資料を集成するKFアーカイブのシステムは音楽家の関係を系譜に写像して、音楽家の作品を詳細に記述して、西洋音楽史を構築する試みです。従前の所蔵システムの検索画面に作曲家や作品名を入力しても所蔵番号を主体に管理されますから、散在した資料を資金や時間を費やして集めることから研究が始まりましたが、KFアーカイブのシステムにより、研究者が散在する資料を報告して、直筆譜や出版譜や音源類を所定の位置に所属させて共有できます。研究を効率化して資料を公共化する有意義な事業です。

系譜の発想は地図を作製して作品の番地を指定して資料の戸籍を作製する感覚です。音楽家の関係から作品や資料を配置して構築します。KFアーカイブのビックデータから文化継承の類型が抽出されます。証拠から論理が展開する演繹法と現実から規則を抽出する帰納法がございます。系譜は音楽と同様に哲学や科学に適用されます。文化伝承の軌跡が見える形で組み上がりますから、新しい観点を提供して、新しい研究の課題を直感で発見できます。

音楽のある書法を追跡して意義を確認できます。科学のある着想が誕生して応用された軌跡を様々な側面から追跡できます。人間の有限な思考では、完全に把握できませんが、恣意性を除くため、一級資料など信頼できる前提を検討して、緻密な論理を展開して、様々な観点から事実を把握します。人間の関係から、音楽の書法や技法、哲学の理論や概念、社会の制度や構造など、抽象的な概念の関係に一般化されます。系譜で資料を連携して発想の起源や思考の祖形から変遷を追跡して、現代の常識から距離を置きながら、当時の実情を観じられます。例えば、通奏低音書法を追跡することは、一般化された系譜の発想です。

音楽でアーカイブを構築してから、哲学・科学・文学・書画など範囲を拡大できます。誰に師事して訓練されたか、どの作品に影響されたか、発想がどう変化したか、直接的証拠となる文献を踏査して、楽譜を対照して書法や様式など、音楽家のクセを抽出して、音型の類似を越えてどの発想がこの書法に結実したか探求して、音型の類似や作曲の過程など根拠となる間接証拠を積み重ねて事実に迫ります。書法の由来を確認するには、文献を踏査して、ある作品のある部分と同じ発想でこの効果を発揮すると様式を対照して、それ以前から継承され、それ以後に応用された軌跡を辿ります。例えば、楽譜に託された作者の意図を歴史で追跡して、本質を理解して、意味を整理して、実際に表現する手段として、獲得した発想が応用されます。音楽家の教育、専門家の研究、愛好家の鑑賞に有用であり、文化振興に直結します。

KFアーカイブは一つの音楽作品を様々な楽譜資料と音源資料を比較対照して把握できます。祖形を理解して種々の要素に到るまで丹念に把握できます。また、ある発想から解釈が派生しますから、多くの作品を色んな演奏で把握してこそ、作曲家の創造性が演奏家の芸術性につながります。人類の文化の特徴は、小さなせせらぎから流れ出て、多くの人が関わり合い、伝承や変容を積み重ね、発展して様式が成り立ち、天才がある様式と別の様式を交配して融合して、新しい発想を生み出しました。

ダランベールは『百科全書』の序文で「これ[諸学問の体系化]を探求する際に我々がとるべき手法は、我々の諸知識の系譜と家系なる用語が許容されるなら、それらを誕生させた諸原因とそれらを相互に区別する諸特性を吟味することである。一言では、我々の諸概念の起源と生成に至るまで遡ることである」と記しました。創造的業績は豊かな文化的背景により誕生します。現代まで継承された高度な文化を満遍なく吟味して受容してこそです。新たな発想は、あらゆる文化を専門として探求してきた学問に精通した業績の蓄積から構成されます。

Jean le Rond d’Alembert, L'Encyclopédie, Discours préliminaire (1751)

Le premier pas que nous ayons à faire dans cette recherche est d'examiner, qu'on nous permette ce terme, la généalogie et la filiation de nos connaissances, les causes qui ont dû les faire naître et les caractères qui les distinguent; en un mot de remonter jusqu'à l'origine et à la génération de nos idées.

系譜の発想で発想の祖形を資料に見つけやすくなります。人間の関係を積み重ねて歴史の総体が形になるからです。微視的な変化が積もり、巨視的な差異になります。通史は、各々の時代や地域の有名な事項を配列して、概要を記述しますが、一方、系譜は、個人の関係を繊細に把握して全体の変遷を把握します。電子機器のネットワークにより、インターネットが形成されるよう、関係性の蓄積から全体性が構築されます。

系譜の発想はコンピュータに馴染みます。系譜で音楽史を探求して音楽系譜学になり、哲学史を探求して哲学系譜学になり、科学史を探求して科学系譜学になります。電算機上で系譜の構造により資料を関連づけ構築して保存して共有して活用するプロジェクトがKFアーカイブです。

系譜とは氏族の直系と傍系を整理して、家族の出自や分流を把握して、個人の身元を保証する方法でした。音楽系譜学に適用しましたら、先ず、系譜の発想により、楽譜(筆写譜・出版譜など)や音源(レコード・テープなど)を整理できるアーカイブを構築して、演奏や研究や鑑賞を通じて教育に活用できます。次に、系譜の発想を音楽学に適用して、著名な事項を羅列した通史ではなく、人間の関係や書法の変遷などに着目して稠密な系譜を構成できます。また、系譜の発想を音楽から哲学・科学・美術・書道などの古典にも応用して、電算機上に資料を整理するアーカイブを構築できます。理論の関係にも着目して時間軸から構成できます。

故に、系譜の発想が学芸を越えて、理論や技術などの伝達、社会の構造や文化の伝承と変遷を追跡して、現今の社会に於ける問題の解決に応用できます。古典的な氏族の系譜が徐々に一般化され、具体的な家族関係が師弟関係になり、抽象的な知識の伝達や概念の変遷にまで意義が拡張されます。古典的な系譜で利用される系譜の真贋を判定して譜註を分析する手法もあらゆる分野の文化に応用できます。

系譜という手法はあらゆる分野に適用できます。文化は一つの起源から多くの支流が生まれては合わさりながら継承されたからです。先人の遺産を源泉として、あらゆる観点から追究する訓練を積み重ねてこそ、新しい創造が湧き出します。楽譜と同じく録音も重要な資料です。録音に遺された演奏は楽譜に遺された作品と同じく高い音楽性を伝えております。歴史を雄弁に語る第一資料を系譜で整理して電子的にアーカイブを構築すると、教育活動・研究活動で大いに役立ちます。文化の本質を継承することは、人間の根源を継承することであり、古来より人類に共通した責務でした。人格を高め続けられる環境を主眼に据えて、機械的な知識の蓄積ではなく、人間的な知恵の集積をすることが大切です。国力は経済財の蓄積でとされますが、文化財の蓄積にも大きく依ります。古典を守り、先人を敬い、文化を嗣ぐ、諸士が協働して、文化を継承する人々を育成して、現代に山積する問題を一つ一つ解決します。どの時代でも、どの地域でも、大切な使命です。

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