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モダンジャズの系譜

ジョン・コルトレーンは1926年にアメリカ合衆国のノースカロライナ州ハムレットで生まれ、1949年ディジー・ガレスピー、1955年にマイルス・デイヴィス、1957年からセロニアス・モンクと仕事をして、主にPrestige・Blue Note・少しだけマイルスとColumbia・モンクとRiversideで録音、1959年からAtlanticや1961年からImpulse!でマッコイ・タイナーやエリック・ドルフィと傑作を連発して、1967年にニューヨーク州ハンティントンで亡くなりました。

1957年にPrestigeで初のリーダーセッションを行い、レッド・ガーラントやポール・チェンバーズとアルバムを作り、ベースと共に二重奏(duo)、ドラムを加え三重奏(trio)、ピアノを加え四重奏(quartet)、トランペットを加え五重奏(quintet)、サックスを加え六重奏(sextet)など小編成(combo)を好みました。

前年にはソニー・ロリンズとTenor Madnessで共演し名演となり、Soultraneでコルトレーンらしい疾走するソロ、Standard Coltrane・Stardust・Bahiaのバラードが名演とされます。

Blue NoteにおいてBlue Traneはパーカーらしくユニゾンで和声コードを提示して、即興を展開してゆく構文による名盤でマイルスらしいクールな印象の簡潔な主題とベースの掛け合いによる手法は、ボビー・ティモンズのMoanin'などに受け継がれました。

セロニアス・モンクとのRiverside盤も貴重です。1958-59年にマイルスとColumbiaでMilestonesやKind of Blueでモードジャズを推進したことも重要です。

1959年にAtranticに移籍してGiant Stepsで音楽史に偉大な貢献をしました。Giant Stepsは3ペンタトニック、Countdownは6ペンタトニックでコルトレーンの代理和声を確立、Naimaは美しい和声の連なりを漂うようであり、Mr. P.C.はポール・チェンバースを讃え、特徴あるリズム音型から大バッハのように音楽を展開します。1961年にOléではラテン音楽のリズムを摂取しています。

Impulse!に移籍してVillage Vanguard Recordingsでモードジャズ・インド・中近東音楽の影響が現れ、エリック・ドルフィやマッコイ・タイナーとすさまじいエネルギーを生み、フリージャズに近いです。

1962年のColtraneはポリリズムなど前衛的になり、Duke Ellingtonと共演してオーソドックスに吹き込み、1963年にJohnny Hartmanとバラードで優しい名演を残し、1964年のCrescentでコルトレーンのバラードを堪能できる名盤を生み出し、Bessie’s Bluesなどシンプルなブルースの音価を究極に細分化して疾走します。A Love Supremeは手堅い構成でAcknowledgement、Resolution、Pursuance、Psalmで起承転結を生み、マーラーやブルックナーの交響曲らしい壮大な音世界を実現しました。

1965年のTransitionではオーネット・コールマンに触発され、フリーク・トーンが炸裂して、フリージャズに突入しました。コルトレーンのテナー・サックスとベース・ソロが濃密をなし構成を引き締め、Living SpaceやAscensionで集団即興を展開してポリリズムからアシンクロな音世界を描きました。

Meditationsでアフリカの民族音楽を摂取してファラオ・サンダースがフリークな音を吹き散らしてカオスに秩序を求めるようです。

1966年のLive at the Village Vanguard Againでスタンダードを演奏しながらコルトレーンの即興はチャールズ・ミンガスのベースのように太くうねり、前衛的なファラオ・サンダースやモダンなアリス・コルトレーンが濃密に絡み合います。1967年のStellar RegionsやExpressionでは高音と低音が折り重なりすがすがしいです。最晩年はカルテットの最小限の構成を好みました。

初期のジャズではキング・オリヴァー(King Oliver, 1885-1938)やフレディ・ケパード(Freddie Keppard, 1889-1933)らのディキシーランド・ジャズ、バンク・ジョンソン(Bunk Johnson, 1879-1949)やキッド・オリー(Kid Ory, 1886-1973)ら、ニューオリンズのブラスバンドは、色んな旋律が対位法的に全体を構成して2ビートで演奏しました。

シンコペートするリズムは均一で和声進行もシンプルですが、旋律が複雑に絡み合いから味わいある響きが聞こえてきます。

シュトンプ(stomp)は西洋音楽の固執低音舞曲のよう、コード進行がIV7−♯iv7−I7−I7−IV7−♯iv7−I7−I7 | IV7−♯iv7−I7−VI7−II7−II7−V7−I7でした。ディキシーランドでは集団全体からある奏者の旋律が聴こえてくる所から、コルネットやピアノによる即興が少し挟み、コンチェルタート様式のように構成されるようになりました。2ビートで構成されながら、裏拍が強調されシンコペートします。

メイミー・スミス(Mamie Smith, 1883-1946)、チャーリー・パットン(Charley Patton, 1891-1934)、レモン・ジェファーソン (Lemon Jefferson, 1893-1929)、ベッシー・スミス(Bessie Smith, 1894-1937)らのデルタ=カントリー・ブルースはマンドリンやギターで渋い弾き語りをしました。

ブルースのコード進行はI−I/IV−I−I7 | IV−IV7−I−I7 | V−IV−I−V7の十二小節で形成され、主和音I、下属和音IV、属和音Vのみ、音階はブルーノートで構成され、短三度(blue third)と短七度(minor seventh)を特徴としていました。

アルフォンス・ピクー(Alphonse Picou, 1878-1961)、ジョニー・ドッツ(Johnny Dodds, 1892-1940)、ジミー・ヌーン(Jimmie Noone, 1895-1944)、シドニー・ベシェ(Sidney Bechet, 1897-1959)らがクラリネットなど管楽器でソロ演奏しました。

ニューオリンズやメンフィスから、シカゴやニューヨークに伝わると、ルイ・アームストロング(Louis Armstrong, 1901-1971)やジャック・ティーガーデン(Jack Teagarden, 1905-1964)らが、ラグタイムの影響でモノディ様式のよう和声に旋律を構成して、ストライドの影響で倍に細かい4ビートになり、三連符のリズムを融合させました。

初期にバディ・ボールデン(Buddy Bolden, 1877-1931)が4ビートを用いていたとも言われます。アームストロングのCornet Chop Sueyは4ビートを三連符で分割して12音符です。

スイング時代にフレッチャー・ヘンダーソン(Fletcher Henderson, 1897-1952)、デューク・エリントン(Duke Ellington, 1899-1974)、ジミー・ランスフォード(Jimmie Lunceford, 1902-1947)、カウント・ベイシー(Count Basie, 1904-1984)、ベニー・グッドマン(Benny Goodman, 1909-1986)、ビリー・エクスタイン(Billy Eckstine, 1914-1993)らのビッグバンドでは、コンチェルタート様式による合奏協奏曲から、ソロが即興する独奏協奏曲に発展したよう、テナー・サックスのコールマン・ホーキンス(Coleman Hawkins, 1904-1969)、レスター・ヤング(Lester Young, 1909-1959)、ベン・ウェブスター(Ben Webster, 1909-1973)、ドン・バイアス(Don Byas, 1912-1972)、アルト・サックスのジョニー・ホッジス(Johnny Hodges, 1906-1970)、トランペットのロイ・エルドリッジ(Roy Eldridge, 1911-1989)、ギターのチャーリー・クリスチャン(Charlie Christian, 1916-1942)、ベースのジミー・ブラントン(Jimmy Blanton, 1918-1942)ら名手が和声を分解して旋律を即興して、4ビートが半分の八分音符になり、ジャムセッションで試行を重ねるうち瞬間の機知を試すようにアップテンポになりました。

ディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie, 1917-1993)やチャーリー・パーカー(Charlie Parker, 1920-1955)らが、和声コードを分解して、音階構造(スケール)と調和して展開する即興のシステムを開発しました。

パーカーはCherokeeを即興するとき、旋律装飾ではなく和声進行を活かしながら、自由に旋律を展開する方法を発見して、バップらしいアップテンポなKo-Koを展開しました。和声進行のコード・経過音のスケール・リズムの音型などに分解して構築して、音楽表現の可能性を著しく拡大しました。

西洋音楽では根音から三度・五度・七度と積み上げて和声を分散して旋律を作りますが、パーカーは逆に七度(セブンス)から下降して根音に到るように作りました。それにより、不安定なコードから安定なルートに向かう、緊張と弛緩が小節の中で生まれ、スイングするビートの効果と合わさりスリリングでエキサイティングな音楽になりました。

ガレスピーはアフリカやカリブ海の民族音楽、車のクラクションや英語の面白い語感など何からでもリズム語法を取り入れて前衛音楽にしました。

パーカーはストラヴィンスキーを好み、〈火の鳥組曲(Firebird Suite)〉をパロディして愛称(Bird)から〈ヤードバード組曲(Yardbird Suite)〉を作り、〈春の祭典(Le Sacre du Printemps)〉や〈ペトルーシュカ(Petrouchka)〉、ヒンデミットの管楽室内音楽(Opus 24/2)も引用しました。

大バッハ・バルトーク・ショスタコーヴィチ・シェーンベルクに関心があり、モダンジャズを西洋音楽の楽曲構造を導入して、音楽構造が組織化した功績があります。

特にパーカーはii–V進行を三全音/増四度(tritone)で置換して、コルトレーンの代理和音進行を先取しました。

デューク・エリントンやライオン・スミスがブルーノートに減五度(flattered fifth)を加え、三全音/増四度(tritone)の進行をしやすいビバップスケールでブルーノートと全半音階を融合しました。ソロで旋律を断片にしてリズムや和声法を抽出して自由に展開しました。

トランぺッターのファッツ・ナヴァロ(Fats Navarro, 1923-1950)は着想にあふれ、クリフォード・ブラウン(Clifford Brown, 1930-1956)は洗練されています。

マイルス・デイヴィス(Miles Davis, 1926-1991)は現代音楽の特にラヴェルを好み、ギル・エヴァンス(Gil Evans, 1912-1988)と交流を深め、ジョージ・ラッセル(George Russell, 1923-2009)の《リディア半音階による音組織(Lydian Chromatic Concept of Tonal Organization)》(1953年)に影響され、縦の響き(和声的・水平的horizontal)と横の流れ(旋律的・垂直的vertical)に音楽を捉え、西洋中世聖歌の教会旋法を用い、マイルスのMilestones(1958年)で実験して、Kind of Blue(1959年)で実現しました。ホットで音が疾走するバップからクールで音が少なく知的で落ち着いた印象を与える個性になりました。

アルト・サックスのソニー・スティット(Sonny Stitt, 1924-1982)、アート・ペッパー(Art Pepper, 1925-1982)、エリック・ドルフィ(Eric Dolphy, 1928-1964)、オーネット・コールマン(Ornette Coleman, 1930-2015)、ジャッキー・マクリーン(Jackie McLean, 1931-2006)、アルバート・アイラー(Albert Ayler, 1936-1970)、テナー・サックスのジョン・コルトレーン(John Coltrane, 1926-1967)、ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins, 1930-)、トランペットのケニー・ドーハム(Kenny Dorham, 1924-1972)、ドン・チェリー(Don Cherry, 1936-1995)らが、Bluenote・Prestige・Riverside・Verve・Atrantic・Impulse!などで名盤を連発しました。

作曲や演奏システムが完成すると個性を反映して、個性を盛り込み豊かにする道と個性で乗り越えようとする道を生みました。ジャズは西洋音楽を手本に70年間で西洋音楽1000年分の変化を成し遂げ、素朴なラグタイム・ブラスバンド・ブルースから、複雑なモダンジャズに到達しました。

リズムはニューオリンズの2ビート、ディキシーランドのシンコペーション、スイングやビバップの4ビート、フリージャズの変拍子・多拍子・パルスへ細分化され、旋律の構成は装飾・和声・音階・無調へ段階的に抽象化され、和声は主音・属音・下属音などドミナントのシンプルなシステムから、パーカーの三全音進行やコルトレーンの長三度循環などへ組織化されました。モダンジャズの音楽家たちの創造力と探求心はすさまじいです。

ピアノもジョン・フィリップ・スーザ(John Philip Sousa, 1854-1932)らのMarchや西インド諸島のマルティニークのBiguineなどに影響を受け、スコット・ジョプリン(Scott Joplin, 1868-1917)らが左手のシンコペートするリズムに乗せて右手のブラスバンドのような旋律を合わせ、コード進行III7−VI7−II7−V7−Iとなるラグタイム奏法になり、ジェリー・ロール・モートン (Jelly Roll Morton, 1890-1941)、ジェームス・P.ジョンソン(James Price Johnson, 1894-1955)、ウィリー・スミス(Willie Smith, 1897-1973)、ファッツ・ウォーラー(Fats Waller, 1904-1943)が左手を跳躍(stride)させ内声を充実したストライド奏法を確立して、スイング時代にアール・ハインズ(Earl Hines, 1903-1983)やテディ・ウィルソン(Teddy Wilson, 1912-1986)らがブルースを得意として、アート・テイタム(Art Tatum, 1909-1956)やエロール・ガーナー(Erroll Garner, 1921-1977)らの超絶技巧による即興ではインテンポに進む中におもしろい旋律が聴こえます。

スイングからビバップに移行するとバド・パウエル(Bud Powell, 1924-1966)やセロニアス・モンク(Thelonious Monk, 1917-1982)らが、リズム拡張とコード進行により組み立て直しました。ビバップの伴奏とソロを一台のピアノで実現したバド・パウエルはビートや和声感に優れ、ラテン音楽との融合を試み、アフロ・キューバン音楽の影響からUn Poco Locoではドラムが8ビートを三分割してクロスリズムを生み出しました。

スイングからバップになるとアップテンポになりながら、ピアノは左手のリズムセクションが逆に音が減り、右手の旋律の音型を工夫して落ち着きが生まれて見通しが利くようになりました。バロック音楽で通奏低音が和声とリズムを兼ね、音楽の流れを決定しましたが、一つの音を弾くだけで和声を暗示でき、リズムも旋律に埋め込むことができたからです。

ハービー・ニコルス(Herbie Nichols, 1919-1963)はバップから距離を置き、ディキシーランド・ジャズや民族音楽や現代音楽などを融合する実験を重ねました。デイヴ・ブルーベック(Dave Brubeck, 1920-2012)も西洋音楽に造詣が深く、ダリウス・ミヨーに師事して、特にTake fiveの五拍子を初めとして変拍子を取り入れました。

ジョン・ルイス(John Lewis, 1920-2001)はバップから出発して、西洋音楽の構造を摂取して端正な作風になり、晩年に大バッハの〈平均律クラヴィーア曲集〉や〈ゴールドベルク変奏曲〉を演奏しました。レッド・ガーランド(Red Garland, 1923-1984)は旋律が美しくてクールです。ホレス・シルヴァ(Horace Silver, 1928-2014)はバップらしくリズムが豊かでホットです。

オスカー・ピーターソン(Oscar Peterson, 1925-2007)は今までの多スタイルができブルースを感じさせます。ビル・エヴァンス(Bill Evans, 1929-1980)はマイルスらに近くモーダルになり都会的で知性を感じさせる構成です。セシル・テイラー(Cecil Taylor, 1929-2018)はオーネット・コールマンに応じて、ヒンデミットに近い音楽性です。

ホレス・パーラン(Horace Parlan, 1931-2017)、ソニー・クラーク(Sonny Clark, 1931-1963)、デューク・ピアソン(Duke Pearson, 1932-1980)、ボビー・ティモンズ(Bobby Timmons, 1935-1974)のハードバップの名盤を連発しました。西洋音楽のルネサンス後期からバロック音楽において、低音主題(和声進行)を固定した変奏曲、ユニゾン(一斉に演奏)からソロを連ねてゆく構文が形成される歴史と重なります。

音楽は、音階と和声、旋律とリズム、音の長短、音の強弱、楽器の音色、楽曲の構造などによりますが、コルトレーンはあらゆるパターンを試みて創作に活かして、西洋音楽の歴史や世界の民族音楽をモダンジャズの音楽語法に取り入れ、創造を打ち出しました。

音楽は楽譜か演奏が遺されていれば、作曲や構築が分かり、全く異なるように見えながら、時代・地域・楽種・楽器も関係なく、構造を共通して相互に融通できます。パーカーやコルトレーンのアドリブが大バッハのゴールドベルク変奏曲を解釈するリズム音型と経過和声の配慮などで有効です。

ジャズもバッハも音色に依存しない音楽ですから、四分音符や三連符の連続したリズムがどのように演奏されるかなど、音楽の流れの中でどの音を打ち出して、リズムや和声感を明瞭にするかなど共通する要素が多いです。

楽器は管楽器のトランペット・トロンボーン・コルネット・クラリネットなどがあり、西洋音楽では弦楽器が多くの音域を担当しますが、ジャズでは音の切り替えが早いサックスが音域でソプラノ・アルト・テナー・バリトンなどに分かれ、ベースやドラムがリズムや和声感を与え、バロック期にチェンバロが担当した通奏低音のようピアノが支えて即興もこなします。

スイング期のビックバンドはオーケストラを管楽器で置換したような構成です。モダンジャズでは管弦楽に対する室内楽に当たるコンボが優勢になり、カルテットやクインテットが盛んでした。楽器構成も音楽の意義も西洋音楽と対応します。

西洋音楽では中世音楽で三全音/増四度(tritone)が知られ、中世からルネサンスのイングランド音楽では対斜 (cross-relation)も出ますが、近代まで響きが良くないとあまり用いませんでした。

リチャード・ロジャースのHave you met Miss Jones?でもオクターブを二分割する三全音や四分割する長三度循環が独特なサウンドとして使われていましたが、作曲の中核に据えたコルトレーンが和声構造の発展に寄与しました。

西洋音楽で和声進行を保つ分散と経過和声を生む旋律を両立する方法が、後期ルネサンスや初期バロックから特にリュートやヴィオールで見つかり、前者はドミナントを主体とする機能和声、後者は全音階または半音階を主体とする音階構成に当たります。

モダンジャズではドミナントに加えて長三度循環、全音階・半音階・旋法・五音階・ブルーノート・ビバップスケールなどまで拡張しました。即興演奏では和声進行を分散して、音階を用いてリズムを組み旋律を紡ぎました。

バロック音楽では無伴奏ヴァイオリン・ヴィオールまたはチェロ・フルート・リュートの作品があり、音階・和声・旋律・リズムなどを一つの楽器で演奏しました。鍵盤楽器に合いますが、旋律楽器では難しく、大バッハやテレマン、プロコフィエフやストラヴィンスキーが挑戦して、チャーリー・パーカーやソニー・ロリンズらが試行を重ねて即興のシステムが完成しました。

和声進行を規定する通奏低音から旋律を作り、旋律を素材として和声構造を抽出して新たな音楽を創れ、モダンジャズでは特にチャーリー・クリスティアンやチャーリー・パーカー、名前を同じくする二人の天才が用いた方法になりました。

そして、先唱/主題(dux)と会衆/応答(comes)など、独特なリズム組織とゼクエンツの形成など、主題(aria)と変奏(variata)は全体(unison)と即興(improvisation)、コンチェルタート様式の合奏(tutti)と独奏(solo)に当たり、音楽を構成する発想が似ています。

但し、楽器構成や演奏速度や音階構造が著しく異なり、別の音楽に聴こえます。モダンジャズに移行する過程でミュージシャンが西洋音楽の組織を拝借したからです。

ピアノやベースで与えられるコード(和声進行)とそれをソロパート(トランペット・サックス・エレキギターなど)でアドリブ(即興)するときに経過音としてスケール(音階)が重要であり、また、ドラムで与えられる四ビートを主体とする(後には五ビートなど拡張される)リズムが結合していることがモダンジャズの特徴であることが分かります。

コルトレーン・マトリックスを構成する長三度循環などの代理和声はベラ・バルトークの中心軸システムやセロニアス・モンクのクセのある個性から影響されています。

また、ニコラス・スロニムスキー(Nicolas Slonimsky, 1894-1995)のスケールと旋律構成を体系化して作曲法にした理論にも影響されています。《音階と旋律の型のシソーラス(Thesaurus of Scales and Melodic Patterns》(1947年)の旋律や音階を即興に導入しました。

Giant Stepsは3ペンタトニック、Countdownでは6ペンタトニックに拡張して、中世後期・ルネサンスに長短音階やドミナントを発見して発達した調性音楽を究極的に一般化しました。

中世後期にデュファイらが完全協和音程の五度(属音)・四度(下属音)を中心とした音組織で長音階(イオニア旋法)と短音階(エオリア旋法)に転じてゆきましたが、当時はイングランドのダンスタブルらが好んだ不完全協和音程の三度(中音)・六度(下中音)を基礎とした転調は意外でした。

五度(ドミナント)を中心にバロック盛期にニコライ・ディレツキ(1679年)やヨハン・ダーフィト・ハイニヒェン(1711年)らが構築した五度圏上で正三角形を構成する長三度循環とヨハン・ゼバスティアン・バッハによる〈平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第13番 嬰ヘ長調 前奏曲〉(BWV 858,1)冒頭の(I−vi−ii−V−I進行)やチャーリー・パーカーがCherokeeで発見して、ブルース化して、セブンスを伴いビバップで多用したブリッジ(ii−V−I進行)で代理和声を確立しました。

Giant Steps進行はB−G−E♭やG−E♭−Bなどの長三度循環を伴い、3トニック・システム(B・G・E♭)、Countdown進行はB♭−G♭−DやA♭−E−Cなどの長三度循環を伴い、6トニック・システム(B♭・G♭・D・A♭・E・C)でマイルスのTune Upのii−V−I進行にコルトレーンが長三度循環を導入して構成しました。

三全音代理(tritone substitution)では五度圏上に四角形を構成して、バロック音楽でイタリアの増六、フランスの増六、ドイツの増六として知られ、下方変位和音をなしていました。近いものにスカルラッティやペルゴレージらが多く用いたナポリの六度もあり、大バッハが〈無伴奏チェロ組曲 第4番〉(BWV 1010)の前奏曲で変ヘ長調から変ホ長調に流れてゆくところでも効果的に用いています。

コルトレーンはColtrane's Soundでスタンダードナンバーに長三度下降を導入して自由なアドリブを展開しました。Giant Stepsはコルトレーンが西洋音楽やモダンジャズの音楽語法や作曲技法を大成した作品であり、特に音階を見ても、ペンタトニックはコルトレーンがソウルバラードや世界の民族音楽を研究して、東アジア・中近東・アフリカの音楽から導入されました。

オリヴィエ・メシアン(Olivier Messiaen, 1908-1992)と似てヘテロフォニーへの指向もあり、雅楽にも関心を持ちました。コルトレーンのPursuanceでは五音音階が前面に出ています。

ブルーノートの七音(C-D-E♭-F-G♭-G/A♭♭-B♭)を五音(C-E♭-F-G-B♭)にしたスケールも用いました。コルトレーンがベッシー・スミス(Bessie Smith, 1894-1937)を讃えたBessie's Bluesは、トニック=ドミナント=サブドミナントだけのシンプルな和声進行F−B♭−F−F | B♭−B♭−F−F | C−B♭−F−Cで構成されます。旋律の終わりが特にブルースらしく対斜を生みます。

ビバップスケールを通過するとき、チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーの雰囲気を感じさせます。パーカーの旋律線は三連符を連ねた旋律や強拍に置いた休符に特徴があり、ソニー・ロリンズの拍とのギャップなどもありますが、コルトレーンはアップテンポなスウィングに合わせ、音価を細分化して、四拍のうち二拍ずつタイで結び、音楽に流れを生み、タタタタではなく、タータタータと聴こえ、符点付音符に近いです。

バロック音楽におけるタイやスラーで記したフレージングやアーティキュレーションに近い捉え方です。時どきハイトーンに抜けてゆく所はガレスピーらしいです。

リディアスケールはマイルス・デイヴィスやビル・エヴァンスの影響から、モーダルジャズの雰囲気を感じます。彼はColumbiaでマイルスやエヴァンスが参加したKind of Blueで少ない音でトランペットを吹いたマイルスらしいクールなサウンドを経験して、Impulse!でImpressionsを作りました。コルトレーンらしく同じモードジャズでもホットです。

晩年にはスケールや和声感覚が希薄になり、エリック・ドルフィやオーネット・コールマンに接近して、フリージャズに遷移して、民族音楽と融合して独特な境地を開拓しました。

才能任せのアドリブではなく、系統だてた構造の追究から、作品を濃密にして大器晩成でした。セロニアス・モンクを「音楽の建築家」と評したよう、不協和音の中に秩序を見つけました。

マイルスはエレクトリックやロックとフュージョンする志向して大衆化をいといませんでしたが、コルトレーンは世界の伝統音楽や民族音楽に関心を深め、モダンジャズを離れ、独自の音世界を描き、アルバムを作り続けました。

実はブルースの旋律やビバップのリズム語法など伝統的なジャズを断片化して構築しているところ温故知新による創造ともいえます。

Nonesuch盤などで民族音楽学者が調査したワールド・ミュージックを生の音で聴くことができたこともコルトレーンの創造を強力に刺激したといえます。

ベースの通奏低音とドラムのリズムに合わせたビバップから出発して、ポリフォニーやポリリズムを導入して、雅楽やガムランのようヘテロフォニーで清々しい感覚に到達しました。

モダンジャズは西洋の古典音楽と世界の民族音楽が音楽家の個性により融合され、新しい音世界を描き出してきた面白さがあり、コルトレーンの発想は音楽の関心が深まるとともに創造のスケールが広がることが感じられユニークです。

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• ブライアン・プリーストリー:《ジャズ・レコード全歴史》(東京:晶文社,1995年)
• 行方均、マイケル・カクスナー:《ブルーノート・ブック》(東京:ジャズ批評社,1999年)
• 岡崎正通、行方均、菊田有一:《プレスティッジ・ディスクガイド》(東京:ディスクユニオン,2013年)
• 濱瀬元彦:《チャーリー・パーカーの技法》(東京:岩波書店,2013年)

Coltrane Changes/Three Tonic System
コルトレーンの代理和声はオクターブ(半音12)を長三度(半音4)で三分割しています。全音階である長音階(イオニア旋法)と短音階(エオリア旋法)ではオクターブは5つの長二度と2つの短二度で構成されます。半音階は12の短二度(半音1)で構成されます。短三度は減七和音、長三度は増三和音を生みます。三全音はオクターブを二分割します。以上をV-I(ドミナントからトニック)やvii-I(セブンスからトニック)への解決やvi–ii–V–I進行などに適用されます。

初期のジャズでは順次進行・半音進行・五度進行・四度進行・増四度進行を用いました。コルトレーンはHave You Met Miss Jones?などに影響を受け、長三度進行や増三和音を用い、Giant Stepsではvi–ii–V–Iを再和声化(reharmonization)して16小節に10回も転調しました。二つの短三度を下がると増四度(三全音の音程)になります。故にジャズの名曲もコルトレーンの手にかかると長三度進行を経過和声に組み込む再和声化により新しい展開の即興が可能になりました。

John Coltrane: Giant Steps(Atlantic 1311・1960年)

John Coltrane: Countdown(Atlantic 1311・1960年)

John Coltrane: Naima(Atlantic 1311・1960年)

John Coltrane: Mr. P.C.(Atlantic 1311・1960年)

Thelonious Monk & John Coltrane: Nutty(Jazzland JLP-46・1961年

Sonny Rollins & John Coltrane: Tenor Madness(Prestige PRLP 7047・1956年

ソニー・ロリンズがPrestigeでセッション録音しているとき、コルトレーンがふらりと訪れて実現した共演です。主題が演奏され、明るめで軽い発声によるコルトレーン、2分12秒から渋くておおらかなロリンズがアドリブをしてから、4分25秒からレッド・ガーランドのピアノや5分32秒からポール・チェンバーズのベースがソロをして、6分17秒からドラムのジョー・ジョーンズとロリンズとコルトレーンが掛け合い、7分24秒から高音で細かいリズムを炸裂するコルトレーンと8分00秒から低音で面白いリズム音型や主題と関係のないフレーズを連発するロリンズが応酬しています。初めは相手に合わせて意識して似たようにしますが、徐々に個性や持ち味が出てきて面白いです。テノール・サックスでも使う音域を変えて聴き分けられます。

チャーリー・パーカーとディジー・ガレスピー(Bird and Diz・1952年・Mercury ‎MGC-512)のRelaxin' with LeeやLeap Frogを思わせ、名手同士の即興合戦はエキサイティングです。

Bird And Diz(1952年・Mercury MGC-512)として初発されたうち、PassportとVisaはトランペットがディジーらしくないとおかしいとチャーリー・パーカーのディスコグラフィを調べましたら、パーカーとディジーのVerve録音(1950年6月6日)ではなく、1949年3月2日(Visa)と5月5日(Passport)のケニー・ドーハムやアル・ヘイグと共演した録音であることが分かりました。The Genius of Charlie Parker #4(1957年・Verve MGV-8006)では訂正されてます。ディジーのトランペットは天真爛漫でモンクのピアノはユニークで直ぐに分かりますね。音を聴いただけでパーソナリティが感じられておもしろいですね。

大バッハの〈デュエット 第2番 ヘ長調〉(1739年・BWV 803)は《クラヴィーア練習曲集》第3巻で出版されました。インヴェンションのように二声で始まり、第38小節(41秒)から後半部で厳格な四度のカノンで二人で歌い合うように書かれていますが、半音進行が主体となり、♭1つのニ短調が下属調で♭2つのト短調に転じる流れと♭なしのイ短調が下属調で♭1つのニ短調に転じる流れが同時に起こり多調になります。模倣音程により完全四度ずれてニ短調―イ短調が生じること、二つの歌手が同時に歌うことを意識づけたように聞こえます。

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