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初期多声音楽からブルゴーニュ宮廷歌曲への系譜

Les Très Riches Heures du duc de Berry (1411-16, F-CH MS 65)
Avril. Château de Dourdan; Septembre. Château de Saumur (c.1410)

皆さま、いつもありがとうございます。人類の文化の起源と展開を知りたくて問い続け、古代の末期から中世を通して、今まで蓄えてまいりました資料から厳選して、最高水準の芸術音楽の粋を集めまして、一つの系譜を構成しました。心を込めて作りました。

パリのノートルダム大聖堂のレオニヌスやペロティヌスは、アキテーヌ地方のサン・マルシャル修道院を中心として発展したオルガヌムのリズム記譜を完成させ、アダン・ド・ラ・アルやペトルス・デ・クルーチェは中世フランス語のモテットに応用しました。

アラスのフィリップ・ド・ヴィトリやランスのマショーらのアルス・ノーヴァ、北イタリアのランディーニやザッカーラらのトレチェント音楽、アヴィニョンのソラージュやボード・コルディエらのアルス・スブティリオルなど、独特な感覚を生み出しました。

ペルージャのマッテオ、パドヴァのチコニア、ヴェネツィアのユーゴ・ド・ランタン、イングランドのダンスタブルなど、ブルゴーニュ楽派(デュファイ、バンショワたち)に甚大な影響を与え、ルネサンス音楽のプロトタイプをなした音楽家も取り上げます。

アルス・スブティリオル期は現代の前衛音楽さながらの実験により創意に溢れ、ブルゴーニュ宮廷歌曲は甘美で洗練されて異世界の響きがします。ティンクトーリスが新しい音楽を切り開いたと証言したデュファイ、バンショワ、オケゲムはチャーミングです。

皆さまのプライバシー保護のため、非公開イベントとしておりますが、お知り合いの方にお声かけ下さりましたら、イベントページにご招待くださりましたら、音楽を愛する仲間が増えまして嬉しいです。皆さまとお会いできますことを楽しみにしております。

初期多声音楽からブルゴーニュ宮廷歌曲への系譜
La généalogie des premières polyphonies aux chansons courtoises


多声音楽の起源から、音楽提要(Musica enchiriadis)などの理論書、中世舞曲(Estampida・Ductia)やモテット(Motetus)、トルバドゥール(Troubadours)、トルヴェール(Trouvères)、ヴィトリー(Philippe de Vitry, 1291-1361)、ランディーニ(Francesco Landini, c. 1325-1397)などの実作も原資料で参照しながら、アルス・ノーヴァ(Ars nova)、アルス・スブティリオル(Ars subtilior)、ブルゴーニュ宮廷歌曲(Chansons courtoises)まで、9世紀から15世紀まで、音楽の記譜と書法の系譜を辿ります。

中世の写本や現代の訳譜をプロジェクターで投影して、チャーミングな音楽と同期させながら、甘美な響きの多声歌曲を目と耳で楽しみます。要所にコメントを付けますため、中世音楽の記譜(ネウマ・モード・計量記譜法)に馴染みがない方もお楽しみいただけます。重要な音楽家の作品を収めた大量の写本に目を通して厳選しまして、濃密なプログラムを実現するように努めました。音楽の記譜や書法の系譜を概観できる貴重な機会です。お楽しみにご友人をお誘い合わせの上いらして下さい。

ヨハネス・ティンクトーリス(c. 1435-1511)『音楽比例論』(1476年)「この時代に至りて私たちの音楽は新しい技法と称すべき優れたものとなった。この新しい技法はダンスタブルを筆頭とするイギリス人と同時代のフランス人デュファイとバンショワが創始して、現代のオケゲム、ビュノワ、レギスとカロンへと直接継承された。彼らは私が今まで聴いてきた中で最も傑出していた」

Johannes Tinctoris [c. 1435-1511], Proportionale musices, prohemium (1476). Quo fit ut hac tempestate, facultas nostrae musices tam mirabile susceperit incrementum quod ars nova esse videatur, cujus, ut ita dicam, novae artis fons et origo, apud Anglicos quorum caput Dunstaple exstitit, fuisse perhibetur, et huic contemporanei fuerunt in Gallia Dufay et Binchois quibus immediate successerunt moderni Okeghem [sic], Busnois, Regis et Caron, omnium quos audiverim in compositione praestantissimi.

2021年7月4日(動画増補)

グレゴリオ聖歌 Viderunt omnes [Cantus gregorianus , Graduale Romanum 48; CH-SGS MS 359, 40r; F-LA Ms 239, 10r]

初期オルガヌム Viderunt omnes [Organum à 2, F-LA Ms 239, 10r + V-CVbav MS Reg. lat. 586, 87v]

レオニヌス Leoninus [c.1125-1201] Viderunt omnes [Organum à 2; I-Fl MS Pluteus 29.1, 99r-99v]

ペロティヌス Perotinus [c.1160-1238] Viderunt omnes [Organum à 4; I-Fl MS Pluteus 29.1, 1r-4r]

アダン・ド・ラ・アル Adam de la Halle [1237-1288] De ma dame vient li [Motette à 3, F-Pn fonds français 25566 35v-36r]

ペトルス・デ・クルーチェPetrus de Cruce [c. 1270-1347] Aucun ont troveit [Motette à 3, F-MO H 196, 273r-275r]

マショー Guillaume de Machaut [c. 1300-1377] Ma fin est mon commencement [Rondeau à 3, R14]

マシュエ Matheus de Sancto Johanne [c. 1330-1391] Sience n'a nul annemi [Ballade à 4, F-CH MS 564 (Chantilly), 57r]

ソラージュ Jean Solage [c. 1345-1403] Helas, je vois mon coeur [Ballade à 4, F-CH MS 564 (Chantilly), 57v]

ザッカーラ Antonio Zacara da Teramo [c. 1350-1413] Je suis navres tan fort [à 3, I-LUs MS 184 (Mancini), 20v-21r]

マッテオ・ダ・ペルージャ Matteo da Perugia [c.1360-1416] Ne me chaut [à 2, I-MOe MS α.M.5.24 (ModA), 48r]

チコニア Johannes Ciconia [1373-1412] Sus une fontaine en remirant [à 3, I-MOe MS α.M.5.24 (ModA), 27r]

ボード・コルディエ Baude Cordier Tout par compas suy composes [Canon à 4, F-CH MS 564 (Chantilly), 12r]

ランタン Hugo de Lantins [c.1380-c.1430] Chanter ne scay, ce poyse moy [Rondeau à 3, I-Bc Q.15, 44v]

ダンスタブル John Dunstaple [c. 1390-1453] Puisque m'amour m'a pris [Rondeau à 3, I-TRbc MS 1375 (Trent 88), 84v]

デュファイ Guillame Dufay [1397-1474] Mon cuer me fait tous dis penser [Rondeau à 4, GB-Ob MS. Canon. Misc. 213, 19v-20r]

Adieu m'amour [Rondeau à 3, I-MC 871 (Montecassino), 3r]

Ne je ne dors ne je ne veille [Rondeau à 3, I-Fn MS Magl. XIX.176, 29v-30r]

Ma plus mignonne de mon cueur [Rondeau à 3, F-Pn Rés. Mus. Vmc. 57 (Nivelle), 64v-65r]

バンショワ Gilles Binchois [c.1400-1460] Comme femme desconfortée [Rondeau à 3, F-Pn Coll. Roths, MS 2973 (Cordiforme), 38v-40r; US-NHub 91 (Mellon), 32v-33r]

Dueil angoisseus [Ballade à 3, V-CVbav MS Urb. lat. 1411, 6v-7r]

オケゲム Johannes Ockeghem [c. 1420-1497] La despourveue et la bannye [Rondeau à 3, US-Wc M2.1.L25 Case (Laborde), 61v-62r]

Mort, tu as navré de ton dart [V-CVbav MS Capp. Giulia XIII,27 (Medici), 72v-73r; I-Fn MS Banco Rari 229, 10v-11r]

F-LA Ms 239, 10r + V-CVbav MS Reg. lat. 586, 87v

2018年12月21日

いつもありがとうございます。昨日はお忙しい師走に多忙な中また遠方よりお越し下さりまして感謝申し上げます。26名の方がたがいらして下さり、おかげさまで充実した時間を過ごすことができました。林さんは受付から御茶菓子など、細かいご配慮でサポートくださり、皆さまが片付けにご協力を下さり、残念ながら所用や遠方のためいらっしゃれない方がたからも温かいお言葉かけを賜りまして、衷心より感謝申し上げます。皆さまからの温かいご支援やご声援に包みこまれて満たされております。

さて、今回は現存最古のグレゴリオ聖歌(9世紀)から、ルネサンス音楽の入口(15世紀)まで、600年間に西洋音楽の構造の変遷を当時の写本や現代の訳譜など、最高傑作の第一資料に基づきまして、何が足されて、何が引かれて、少しずつ変遷を重ね、西洋音楽が対位法や和声法などを育ちまいた過程をダイジェストに取り上げました。言語学では通時態とされ、ある言語の歴史的変遷を追いかけることに当たります。中世哲学、文学、絵画、生活、政治、歴史、社会、言語などにも興味があり、文化を享受していた人たちの好みが、音楽に込められた考えや思いに反映されましたが、音楽家の生涯、政治史の詳細など、歌詞の意味などは敢えてほぼ割愛して、音楽の構造を楽譜の上で確め、実演を聴き、目からの楽譜上と耳からの音響上のイメージを一致させ、また、楽譜に親しみのない方も、実況中継で要点を抑えられますように致しました。音楽家・研究家・愛好家の作曲・演奏・鑑賞のお役に立てる有意義なサロンにしたいからでした。

今回は自分のノートパソコンで何度もリハーサルとシュミレーションを重ねましたが、皆さまに向かい説明に注力して、楽譜が実演と同期しない不手際は申し訳ございません。それでも要点だけを抜き出して、説明を差し上げてから、静かに聴くだけより、実際に音楽を聴いている瞬間にどこに反応して感激するか、日常の音楽を探究する現場を皆さまの前でそのままお見せすることが、ハートで伝わると思いました。

音楽の響き、音程の長さ、和音の流れを感じており、言葉にならない感激をジェスチャーでお伝えすることも多々ございましたが、非言語的なコミュニケーションも対面でこそですね。言語でも単語が文章で段落で作品の中でどんな役割を果たしているかと同じく、作曲の技法は音楽の流れの中で果たしている役割があると考えられ、音楽に限らず文化の変遷は、天才が突然に登場して、創造を勝手になすではなく、先人の試行錯誤がが各地で伝統として蓄え続けられ、ある人物がそれらを吸い上げ、新しい考えのもとに組み立て直しながら作られてきたことが分かります。そうした観点から系譜で構造の変遷を追跡する手法が文化の把握に有用と確信しております。

ですから、完全に音楽の世界に没入して、響いている音に成り切り、皆さまの前でどのように音楽を体験しているかをお見せすることが、具体的・限定的に古楽(中世・ルネサンス音楽)の知らない曲を聴くという以上に作曲・演奏・鑑賞・研究のヒントとなり、更に抽象的・包括的にある時代も地域も全く異なる文化を理解するため、当時の人々の考えや思いにどのように迫れるか、私の思考様式や探求方法をなるべく、皆さまのご興味にかないますよう、先人たちが遺した最高の音楽芸術の遺産をふんだんに用い、実例に基づき、私の考えを述べるではなく、先人のアイディアをそのまま汲み取り、言語化してお伝えできますように心を砕きました。特に多声音楽では、目立ちやすい外声を追うだけでなく、内声(モテット声部やテノール声部、バロック音楽のオブリガート声部)などを探るため、私は同じ曲を何十回も楽譜に照らして、ある声部を追い、次はある声部と別の声部との相互作用を確かめ、全体の響きのバランスを味わい、毎回異なる観点から、楽譜と実演を結び付け、音楽の構成を明確にするように努めました。究極では音楽を学ぶとき、実例を大量に体験して、楽譜でどのように書かれて作られていたら、実演でどのように奏するか響くのかを知ることに尽きると考えられます。

創作にしても、演奏にしても、大量の体験から、自然と好みや考えや思いに合うに組み立てられますから、大域的に物事を見て、局所的に意義を深め、両者が調和する形で探究をしてまいりました。今回は時間の関係でノートルダム楽派のオルガヌムを構造が把握され以下省略としたり、宮廷歌曲のリピートを割愛するように音源を加工して、大量の実例を超濃密度の二時間で体験するという無謀な挑戦でしたが、1000年以上も先人たちが積み重ねてきた遺産ですから、生涯をかけても知り切れないほど、色んな考えや思いが込められています。例えばマショーやデュファイには膨大な作品が残されますが、総覧して特徴がよく現れる作品を選び、厳選して作曲技法が重なるときはそぎ落としてプログラムを濃縮しました。中世音楽で用いられた作曲技法、即ち西洋音楽のあらゆる手法を網羅したいという大胆な目標のためです。以下に昨日にお話したことを一日かけて思い出して書き出しました。長文になりましたがご参考にして下されば幸いです。

先ず、西洋音楽を遡れるだけ遡り、①グレゴリオ聖歌から始めました。クリスマスの特別企画として、日中のミサの昇階唱〈総ての国々は見た(Viderunt omnes)〉でザンクト=ガレン写本(922年・CH-SGS 359, 40r)において、特に先ずは「地の果てまで私たちの神の救いを見た。総ての地で神を讃えよう。主は(神の)救いを知らせ、あらゆる民族の前で神の正義が示された」という、強烈な歌詞の意味を歌いながらお話しました。譜線なしネウマ譜は音の高さの変化の軌跡を紙に書き下した記号の集まりですが、強調したい言葉「神(Dei)」や「総て(omnis)」などにクィリスマ(quilisma)などが使われ、角型になるときに情報が落とされましたため諸説ありますが、実際に歌いますとある離れた音程に向かうときに経過する音を示しており、三度や五度で上下行を繰り返して蓄えられたパッションが炸裂して急激に上行するとき、なめらかにつないだり、ある高さに入るときにアクセントを加えて押したり、前打音や滑奏音に近い、音の間の微妙な高さの変化を示すと考えるのが自然です。雅楽も旋法音楽で呂旋(ミクソリディア旋法)・律旋(ドリア旋法)をモード・ジャズのように移高したものに当たり、龍笛の楽譜はタブラチュアですが、音楽が自然に流れますよう、下から入るとか押したり、音の入り方や押し方、音の間に高さの変化が大切で同じ発想で組み立てられていると感じております。

また、「主(Dominus)」の長いメリスマがあり、また上下の激しい聖歌は起源が古いものが多く、旋律の作り方により、時期が分かること、また、特に「地(terrae)」「救い(salutare)」などは終止音(finalis)に対して三度上と五度上を行き来しながらギアチェンジをして、時どき間の四度に寄りながら、蠕動運動をしてエネルギーを高め、「民族たち(gentium)」にクィリスマ(quilisma)が噛み、パッションが炸裂して急激に上昇して解放されて爽快です。そこから優雅に上下行しながら沈静して、「彼[神]の正義が示された(revelavit iustitiam suam)」という結論が示されます。僅か二分間にも満たない単旋律の聖歌にこれだけ豊かな音楽情報が含まれることは驚嘆すべきことであり、グレゴリオ聖歌は人類の奇蹟と言いましても過言ではなく、間違えなく聖歌をイメージする訓練することにより、音高や音程、音の入り方、繋ぎ方、押し方などの豊かな感覚が養われますため、今後とも実践を通じて探求をし続けたいと思います。

音の高さが意識され譜線が生まれ、口伝えされた大量の聖歌を記譜して、歌い出す音の高さで分類した教会旋法が提唱されザンクト=ガレン写本(10世紀・CH-SGS 376, 99r)では初めに言葉を書いた後から付けられたネウマがはみ出していますが、モンプリエ写本(11世紀・F-Mof H 159, 94r)ではネウマに添えて文字で音の高さが書かれ、アルビ写本(F-Pnm Latin 776 (Albi), 13v・12世紀)ではA音の線がうっすらと引かれて高さが点で示され、グラーツ写本(13世紀・A-Gu 807 (Klosterneuburg), 14v)ではネウマの両端が角型し始め、E・C・A・F線を伴い、完全に音の高さが表されました。

古写本を校訂した《ローマ聖歌集(Graduale Romarum)》(1974年)に最古のネウマ譜のラン写本(930年頃・F-LA Ms 239, 10r)とザンクト=ガレン写本(922年・CH-SGS 359, 40r)を上下に加えた《三記譜の聖歌集(Graduale Triplex)》(1979年)を資料として配布しました。音部記号(C)を手がかりに歌うか音を出して楽しめます。また、グイド(Guido Aretinus, 991-1050)の手(I-MC MS 318, 291r)やヘクサコルド〈貴方の僕達が(Ut queant laxis)〉(1033年・Epistola de ignoto cantu directa・F-Pnm Latin 7211, 99v)など基本要素まで取り上げました。基本要素にまで徹底して遡り、当たり前に感じていることが途轍もないと分かり、西洋音楽が音の高さをダイアグラムで示す楽譜もその一つです。

次に聖歌に音程を付ける即興を実例で示した《音楽提要(Musica enchiriadis)》(895年頃・V-CVbav MS Pal. lat. 1342, 118r)の〈天の王、海の主(Rex caeli, Domine maris)〉は同度→二度→三度→四度まで開いて閉じるだけで美しく響き、音程の距離が少なく音が溶けあい味わいがあり、一音対一音(punctus contra punctum)は対位法(contrapunctus)の語源となりました。先の聖歌に応用して、②二声オルガヌム(11世紀・F-LA Ms 239, 10r + V-CVbav MS Reg. lat. 586, 87v)となり、ラン写本の原聖歌(vox principalis)とパリ南部のフルリー修道院(Abbey Saint-Benoît-sur-Loire)に由来する対旋律(vox organalis)では、平行・斜行・反行に加え、保持低音(オルゲルプンクト)を伴い、自由にメリスマが動き、不協和の二度が経過的に生まれ、三度・四度・五度の響きに向かい、音程の差が少ないために美しく柔らかく響きました。

実はどんなに複雑に旋律が絡み合う多声音楽も分解すれば、平行・斜行・反行の重ね合わせに帰着します。次は保持低音を響かせながらメリスマを歌い、一対一から一対多へと細かく分割される過程として、南フランスのアキテーヌ型(サン=マルシャル楽派)の二声オルガヌム〈アレルヤ、歌おう、喜ぼう(Alleluia, Jubilemus exultemus)〉(12世紀・F-Pnm Latin 1139, 41r)では、一対四~六、十五~十八にも拡張され、もはや新しい旋律を創作といえ、オクターブまでほぼすべての度数から旋律が湧きだして、順次進行で流れがスムースで保持低音が目まぐるしく変わり快活でした。

次はアキテーヌ型のオルガヌムを完全に継承したノートルダム楽派のオルガヌムで③レオニヌス(Leoninus, c.1125-1201)の二声オルガヌムでした。聖歌の原旋律は分からないほど引き延ばされ持続低音になり、上に数十の音が並べられ、数個から十個ほどで休符の起源となる「|」で区切られました。アキテーヌ型にもある一気に下降する装飾も一オクターブ半も落とされる装飾になり、聖歌に対旋律を付け装飾するというより、楽器で分割装飾(ディヴィジョン)をした世俗音楽の技法が教会音楽に作用したと考えられます。

ノートルダム楽派の六つのモードが古典ギリシア詩の韻律から発想され、当時は12世紀ルネサンスの真っ只中でイベリア半島、イタリア半島、シチリア王国、ビザンツ帝国などから古典文化や学術が流入して、西洋の哲学や文学に大きな変革が起こり、音楽も高度に組織化されました。また、詳しくモードが説明される文献として、モラヴィアのヒエロニムス(Hieronymus de Moravia, c.1220-1271)の《音楽論(Tractus de Musica)》に引用される《ディスカントゥスにおける通常の配置(Discantus positio vulgaris)》(1230年頃)が初出ですが、実際には完全にモード・リズムに従わない作品が多いため、モード記譜法の基本発想として、長短のパターンを音で聴きました。

オルガヌムを構成するときに上に重層的に積み上げるにはリズムを規格化する必要が生じましたが、西洋音楽にリズムをもたらした要因は、アル=アンダルス(イベリア半島)のイスラム宮廷文化と接触してプロヴァンス地方(南フランス)のトルバドゥール(troubadour)の世俗歌曲が生まれ、宮廷愛や器楽曲が伝えられ、オック語(見つける・trobar)か、アラビア語「歌う(طَرَّبَ ṭarraba)」「心が動かされる(طَرِبَ ṭariba)」の三子音の語根(طرب ṭ-r-b)が語源であるとお話しました。ラインバウト・デ・ヴァケイラス(Raimbaut de Vaqueiras, c.1150-1207)の〈五月のはじめ(Kalenda maia)〉(F-Pnm Français 22543, 62r)は三拍子系のエスタンピー(Estampida)で書かれ、現存最古層の舞曲を聴きました。

ノートルダム楽派が隆盛した当時のイングランドの〈ドゥクツィア(Ductia)〉81253年・GB-Ob MS Douce 139, 179v)は、気鳴楽器(コルネットで主旋律やサックバットで持続低音)で演奏され、ノートルダム楽派のモード記譜法で書かれて、持続低音に細かいリズムを散りばめた発想は、世俗音楽が聖歌の旋律を引き延ばして教会音楽に作用したことが分かりました。④ペロティヌス(Perotinus, c. 1160-1238)の四声オルガヌム(1198年・I-Fl MS Pluteus 29.1, 1r-4r)は、聖歌を引き延ばした低音(Tenor)の上に三声(Quadruplum・Triplum・Duplum)が縦に積み上げられ、色んな形のリズムを組み合わせ、半拍ずれてシンコペートしたり、係留やしゃっくり音型(hoquetus)、声部間での同型のリズムや旋律の交換をして応答したり、前打音や急激な下降、また、オルガヌムの最後には徐々に盛り上がるように作られていました。

別の見方をすれば、上三声はコンドゥクトゥス(conductus)として作られた三声の構造を持続低音に結合して作られたとも考えられ、ペロティヌスの前任者アルベルトゥス(Albertus Parisiensis, 1116-1177)の史上初の三声コンドゥクトゥス〈カトリック教徒よ、喜ぼう(Congaudeant catholici)〉(1139年・E-SC s.s. (Codex Calixtinus), 214r)を聴きました。フランス北部のクリュニーで編纂され、サンティアゴ・デ・コンポステーラまで巡礼路で伝えられました。ノートルダム楽派の三声コンドゥクトゥス〈めでたし、海の星(Ave maris stella)〉(I-Fl MS Pluteus 29.1, 221r-221v)のモード記譜法と現代譜を比較すると下の一つか二つの点に対して三つが縦に音符の結合(ligatura)で書かれ、縦に音程を揃えてから分割して作られたことが分かり、特徴的な三連符が各声部に代わる代わる登場しました。

最初期の三声モテット〈おお、マリア、海の星よ/真実を(O Maria, maris stella/Veritatem)〉(D-W Cod. Guelf. 1099 Helmst. (W2), 125r-126r)はオルガヌムの複雑なメリスマの部分クラウズラ(clausula)を上二声の旋律の素材として、長い音価の低音を付け、最上声と中間のモテット声部を協和音程を主体として付け、現代譜では最上声が細かくモテット声部がそれより緩やかに動きましたが、先ほどと同じく音符の分割で書かれて、垂直の揃いが強いことが分かりました。最上声と最下声の音程が五度以上離れて響きが分離して聴こえるのを防ぐため、モテット声部が間に挟まれて全体で響くようになりました。三声二重モテット〈おお、マリア、神々しい乙女よ/おお、マリア、海の星よ/真実を(O Maria, virgo devitica/O Maria, maris stella/Veritatem)〉(F-MOf H 196, 88v-90r)では、最上声がより細かく分割され、モテット声部に異なる歌詞を付けて複雑になりました。

南フランスのトロバドゥールを代表してマルカブリュ(Marcabru, 1099-1149)の〈私は波が静まり嬉しい(Bel m'es quan son li frug madur)〉(BdT 293,013・F-Pnm Français 844 (Chansonnier du Roi), 203v)の旋律では、音の高さだけが表示され、長短の区別ができないネウマから、プロヴァンス語(オック語)の歌詞により長短を推測でき、また、北フランスのトルヴェール(trouvère)に伝搬したシャステラン・ド・コウシ(Chastelain de Couci, c.1150-1203)の〈五月に菫がまた咲いた(Li noviaus tens et mais et violete)〉(F-Pnm Français 844 (Chansonnier du Roi), 53v)は中世フランス語(オイル語)の母音と子音と対応して細かく上下していました。

世俗歌曲の細やかなアクセントを持つ旋律や調性に近い響きが導入され、⑤アダン・ド・ラ・アル(Adam de la Halle, 1237-1288)の三声モテット〈私の婦人から耐え難い痛みを負うた/神よ、どのようにして彼へ到る道を見つけるでしょう/全て(De ma dame vient li dous maus que je trai / Diex, comment porroie trouver voie / Omnes)(F-Pnm Français 25566, 35v-36r)の最上声とモテット声部はフランス語に置換され平行や反行して、時には旋律を引き継いで活発に動いていました。⑥ペトルス・デ・クルーチェ(Petrus de Cruce, c. 1270-1347)の三声モテット〈ある人たちは慣習として歌を作るが/長いこと私は歌うことはなかったが/告げて(Aucun ont troveit chan par usage / Lonc tens me sui tenus de chanteir / Annuntiantes)〉(F-MO H 196, 273r-275r)ではセミブレヴィス(semibrevis)まで音価の分割が進み、細かい音が5個や7個も繰り出され、フランス語の小気味良いアクセントを表現しました。最上声を上手く利かせるため、モテット声部は緩やかで順次進行の上下して動いて雰囲気を与えました。

アルス・ノーヴァ(Ars nova・新芸術)を主導したヴィトリー(Philippe de Vitry, 1291-1361)の三声モテット〈喇叭で聖なる信頼を/木の下で満たされて茂り/われは乙女なり(Tuba sacre fidei proprie / In arboris empiro prospere / Virgo sum)〉(I-IV MS 115 (Ivrea), 15v-16r)では、今までのモテットの基本構造を保持しながら、チャーミングなリズムから始まり、聴く人を引き付けてから、係留して上二声(最上声とモテット声部)が呼びかけ応じたり、最上声の旋律を引き継いだり、特徴的な音型をお互いに繰り返して、二人が会話しているようで演劇のような要素を持ち込みました。最後の方で盛り上がる所で最上声の休符の位置にモテット声部が音を与えてしゃっくり音型をなしていました。

マショー(Guillaume de Machaut, c. 1300-1377)の〈私が初めて愛する人を訪れたとき/愛と完全な美/強烈な苦しみ(Quant en moi vint premierement Amours / Amour et beauté parfaite / Amara valde)〉(US-KCferrell MS 1 (Vg), 260v–261r)で特徴的なリズムを反復するアイソリズム技法やしゃっくり音型、〈ノートルダムのミサ(Messe de Nostre Dame à 4)〉(1364年)(US-KCferrell MS 1, Machaut (Vg), 283v)で二つの導音をかませて強烈な不協和音を生じてから終止する二重導音終止を体験しました。マショーはかなりアクの強い性格で強烈な響きを好みました。⑦蟹型のカノンによる三声ロンドー〈私の終わりは私の始まりである/終わりは私の始まりである(Ma fin est mon commencement / fin est mon commencement)〉(R14・F-Pnm Français 9221 (E), 136r)はテノール声部が一つ書かれ、最上声とモテット声部は逆からお互いに同じ一本の旋律を歌い、また逆に戻りながら歌い、見事に三声をなしました。

同時期の北イタリアのトレチェント音楽も同時代の交流や次世代の考察の補助としました。ヤコポ・ダ・ボローニャ(Jacopo da Bologna, c. 1310-1386)の三声マドリガル〈別の鷹が頂きに泊まり/神の鳥が正義を教える/優しい生き物が畏れ(Aquila altera ferma in su la vetta / Uccel di dio insegna di giustitia / Creatura gentil animal degno)〉(F-Pnm Italien 568 (Pit), 2v-3r)は、下降音型を主体として外声が一緒に下がりきると不協和な導音が響き、解決欲求を与えて、モテット声部も加わり下り、最下声は逆に上に向かうように書かれていました。また、最下声は活発に動いて、旋律が下からも聴こえ、最下声を長音価で固定する書き方から自由で声部の関係が対等でした。

クルト・ザックス(Curt Sachs, 1881-1959)が《リズムとテンポ(Rhythm and Tempo. A Study in Music History)》(1953年)で指摘したようイタリアでは不完全分割(二分割)が完全分割(三分割)と同じように使われており八分音符6つの特徴的な流れを生んでいます。フランス式ではケルンのフランコ(Franco Coloniensis)の《計量音楽論(Ars cantus mensurabilis)》(1280年頃)、イタリア式ではパドヴァのマルチェット(Marchettus de Padua, 1274-1326)の《ポメリウム:定量音楽芸術(Pomerium in arte musice mensurate)》(1318年)の定量記譜法の理論書が有名です。

また、ランディーニ(Francesco Landini, c. 1325-1397)の三声バッラータ〈私の愛しい婦人よ、私は彼女の幸せに生きる(Cara mie donna i' vivo oma' contenta)〉(I-Fl MS Mediceo Palatino 87 (Squarcialupi), 161r)は、確かに完全音程の五度を主体として、経過的に三度が用いられ甘美な雰囲気ですが、二重導音終止も見られながら、特に節の終わりでランディーニ終止(下三度終止)が用いられ、上声が長二度下がり、短三度上がり終止しました。彼の師フィレンツェのゲラルデッロ(Gherardello da Firenze, c. 1325-1363)が用い、ブルゴーニュ楽派まで使い優雅で余韻を残した美しい終止でした。

アルス・スブティリオル(Ars subtilior・繊細な技法)期にアヴィニョンの教皇庁で活動した⑧マシュエ(Matheus de Sancto Johanne, c. 1330-1391)の四声バラード〈知識には敵は無い/嫉妬がよくあると私はあなたに言う(Sience n'a nul annemi / Envieuz sont, je le vous di)〉(F-CH MS 564 (Chantilly), 57r)は一世紀後のジョスカン(Josquin Desprez, 1450-1521)を思わせるような強烈な響きで不気味な音程を解決せず、次に移るためにふわふわと漂いながら、下降音型が散りばめられ、美しい流れが感じられる神秘的な響きでした。ルネサンス期のように音価が長くて響きを味わえました。

また、同じ写本にある⑨ソラージュ(Jean Solage, c. 1345-1403)の四声バラード〈ああ、私の全く良からざる心を見る(Helas, je vois mon coeur qui tant m'a fait de bien)〉(F-CH MS 564 (Chantilly), 57v)はマショーが好んだ旋律線をなさずにブツ切りの特徴的なリズムをあちこちに散りばめたアイソリズム技法やしゃっくり音型、また、強力なバスの音程の流れなどが使われ、中世音楽のお手本のようでした。特にシャンティ写本にはトレボール(Jean Robert, Trebor)やセンレーシュ(Jacob Senleches)など前衛音楽が多く、特に四声の大きな作品を選び出しました。

北イタリアでランディーニの次世代の⑩ザッカーラ(Antonio Zacara da Teramo, c. 1350-1413)の予告した一曲は歌詞が気に入らず止め、二声バッラータ〈ロゼッタは色を決して変えない(Rosetta che non cambi may colore)〉(F-Pn NAF 4917, 20v-21r)を二提のフィドルで楽しみました。器楽曲集として有名なファエンツァ手稿(I-FZc MS 117 (Faenza), 50v-52r)にも記載されます。分割装飾(ディヴィジョン)で華麗対位法(contrapunctus floridus)の細やかな装飾が散りばめられて長い音を分けて音型の反復句をなして楽しい音楽でした。

⑪マッテオ・ダ・ペルージャ(Matteo da Perugia, c.1360-1416)の二声ヴィルレー〈私はあなたが話すのを気にしない(Ne me chaut vostre man parler)〉(I-MOe MS α.M.5.24 (ModA), 48r)は、イオニア旋法(長音階)で書かれてモダンな響きですが、時どき臨時記号が付き、ドリア旋法らしく陰りがあり、リズム音型の結合がおもしろく、旋律の作り方に天才的着想が見られ、ブルゴーニュ宮廷歌曲で定型になる終わりの句で細かい旋律をなす技法も現れてきました。

フランドル地方のリエージュ出身で北イタリアのパドヴァで活躍したチコニア(Johannes Ciconia, 1373-1412)による三声バッラータ〈おお、美しい薔薇よ/おお、愛の神よ(O rosa bella / O dio d'amore)〉(V-CVbav MS Urb. lat. 1411, 7v-9r)も長音階に近く書かれ、細かいリズムによるチャーミングな旋律、マショーが用いた特徴的な動機に加えて、同じ音型を一つずつ高い音で反復して、豊かな感情の昂ぶりが、前半に二回(o dolce anima mia、non mi lassar morire)、後半に二回(ay lasso me、per ben servire)に現れて、優雅に下降しました。しかも、下声部(テノール)は根音をなぞり、上にテノールに対する旋律(contratenor altus)を書き込み、根音に音程を積み上げ、自由な最上声を支えました。

⑫三声ヴィルレー〈泉をじっと見つめている間(Sus une fontaine en remirant)〉(I-MOe MS α.M.5.24 (ModA), 27r)はフレーズごとにメンスレーションを変更され、完全分割(三分割)と不完全分割(二分割)を組み合わせた計量記譜法の仕組みを簡単にお話しました。係留が多用されて、声部毎に拍が異なるため、三本の旋律がばらばらに聴こえながら、時どき一致して、シンコペーションも聴こえて面白いです。アルス・スブティリオルの複雑なリズムの最後期の例でした。

また、シャンティ写本にある⑬ボード・コルディエ(Baude Cordier (Fresnel))の三声カノン〈私はコンパスで全て作られた(Tout par compas suy composes)〉(F-CH MS 564 (Chantilly), 12r)を楽しみに聴きました。題名通り円形に書かれ、内側のテノールを歌い、外側を追いかけて歌い、同度のカノンをなしました。特に音程が同じときは特徴的なリズムや音型が必要でメンスレーションが変更されて手が込んでいました。また、イングランドのウィコンブ(Willelmus de Wycombe)の作とされる現存最古のカノン〈夏は来たりぬ(Sumer is icumen in)〉(1261-64年頃・GB-Lbl Harley 978, 11v)も聴きました。上四声は等間隔のリズムできれいにそろうカノン(rota)をなして、下二声は固執低音(Pes)は一対一に音程をなして、反復して構成されるため、ノートルダム楽派の音楽の書き方に準じていることが分かりました。

ブルゴーニュ宮廷歌曲の礎となる⑭ユゴー・ド・ランタン(Hugo de Lantins)の三声ロンドー〈歌うことを知らないなら、それは私の荷となる(Chanter ne scay, ce poyse moy)〉(GB-Ob MS. Canon. Misc. 213, 32v)は、完全に下声部の上に対旋律が三度・五度などの協和音程を主体として、節の終わりが細やかな装飾で上下して、最下声のモチーフを最上声が模倣するように書かれており、知る限りにおいて、最古の模倣技法による歌曲をなしており、様式が完成していました。

また、グレニョン(Nicolas Grenon, c.1385-1456)の三声ヴィルレ〈最も美しく優しく最も高貴な御顔(La plus belle et doulce figure plus noble)〉(F-Pn NAF 6771 (Reina), 114v-115r)はレを終止音とするドリア旋法らしいですが、シに臨時記号が付き、エオリア旋法(短音階に当たりニ短調)でして、更に節が変わるといきなり、五度上から旋律を始め、六度上に留まり下降して、後半には四度下から旋律を始め、トニックに対するドミナントやサブドミナントに相当する発想が意識的に用いられ、不安定な心情を表現するために使われ、また転回形や八度からの下降などでソフトな仕上がりでした。彼らはデュファイの同僚や師匠であり、デュファイの初期作品と区別がつかないほどです。

⑮ダンスタブル(John Dunstaple, c. 1390-1453)の三声ロンドー〈私の恋は私を不幸せにするから(Puisque m'amour m'a pris en déplaisir)〉(I-TRbc MS 1375 (Trent 88), 84v)は、三度と五度が対等に使われ、三和音や転回形が常に豊かに響き、上声部が緩やかに動き、ランディーニ終止も見られ甘美でした。中世音楽のように複雑な旋律を組み合わせず、安定した柔らかい響きを常に生じるように縦を揃えて、経過音を書き入れる発想で作曲されており、発想の起源はイングランドで聖歌に一対一に歌うことにより即興したディスカントゥス様式(Discantus)に遡り、ウスター断片(Worcester Fragments)の三声ミサ曲断章〈グローリア(Gloria)〉(GB-WOc Add. 68 xix 4v-5r)の響きを体験しました。昨日は聞きませんでしたが、オールドホール写本(Old Hall Manuscript・GB-Lbl Add. MS 57950)にも多く見られます。

最高傑作の三声モテット〈あなたは何と美しく、そして魅力がある愛すべき人であろう(Quam pulchra es et quam decora carrissima in deliccis)〉(I-MOe MS α.X.1.11 (ModB), 83v-84r)では、同じように書かれていますが、平行や反行を上手く用い、響きの意識の重心を上下に揺らしたり、特に以降にイングランドで隆盛するトレブル・テノール・バスのガンバによるヴィオール合奏が、安定した和声構造により実現されたことを体感しました。イングランドから伝わりました平行和声の技法がブルゴーニュで六度下と四度下をなぞるフォーブルドン(fauxbourdon)に変わりまして、デュファイの三声賛歌〈めでたし、海の星(Ave maris stella)〉(I-MOe MS α.X.1.11 (ModB), 7v-8r)で神秘的な響きを体感しました。以上でほぼ多声音楽の技法は説明かつ体験しつくされ、ブルゴーニュ宮廷歌曲の原型は完成して、以降は三和音と転回形による響きの連なりの基本形を変形する応用として、時間も押してまいりましたため、次から次へと聴いてゆきました。

⑯デュファイ(Guillame Dufay, 1397-1474)の四声ロンドー〈私の心は常に私を思いにふけさせる(Mon cuer me fait tous dis penser)〉(GB-Ob MS. Canon. Misc. 213, 19v-20r)は、先ほどのダンスタブルのような美しい和音が連なりの合間を縫うように順次進行の流れが生まれることによりなめらかに響きが移り変わりました。また、三声ロンドー〈さようなら、私の恋よ、さようなら、私の喜びよ(Adieu m'amour, adieu ma joye)〉(P-Pm 714, 70v-72r)は中間声部はヴィオールで最上声と最下声が歌われましたが、特に下の二声が美しい三度をなして、最上声と中間声部が交互に折り重なり、愛する人との別れなど、寂寞感が甘美な響きの中に感じられました。三声ロンドー〈まどろむでもなく 目覚めるでもなく(Ne je ne dors ne je ne veille)〉(I-Fn MS Magl. XIX.176, 29v-30r)は完全な長音階で書かれ、モダンな響きで節の終わりのメリスマが特徴でオクターブも上昇して緩やかに下降しますため、優雅でその時にバスが三度でなぞりますために甘美で強力な流れを生み出して引きこまれました。三声ロンドー〈私の心のとても愛しい人よ(Ma plus mignonne de mon cueur)〉(F-Pn Rés. Mus. Vmc. 57 (Nivelle), 64v-65r)は上二声が平行三度をなして、模倣を繰り返してエコー効果により歌詞が際だちます。上行しきるところでゆるやかに下行に向かう所の余韻の残し方など導音の使い方がおもしろいです。

⑰バンショワ(Gilles Binchois, c.1400-1460)は三声ロンドー〈落胆した女性のよう(Comme femme desconfortée)〉(F-Pn Coll. Roths, MS 2973 (Cordiforme), 38v-40r)はハート形の楽譜に書かれており、先ほどの基本形を上二声が平行に下二声が反行を主体として構成されて音程の変化が生まれてシンプルな構造にも関わらず立体感があり、また三声が内声にかたまり、近い音程で動くために声が溶けあい一体感があります。三声バラード〈苦悩に満ちた悲しみ、大きな怒り(Dueil angoisseus rage demeseurée)〉(I-TRbc MS 1375 (Trent 88), 204v-205r)は、ヴェネツィアからフランスへ嫁いだ中世最大の女性文筆家クリスティーヌ・ド・ピザン(Christine de Pisan, c.1365-c.1430)が父や夫の死を悼んだ詩により、哀愁の漂う歌詞と優雅な旋律の音楽ともに最高水準の作品です。名旋律で最上声とテノールに対して三つも下に対旋律が付けられて五声にまで拡張されました。冒頭は三和音を分散させ、導音連打や順次進行や導音を伴う終止しかのみのシンプルな構成であるにも関わらず、美しい旋律を活かすためにリュートの伴奏に女声で歌う演奏を選びました。通常は順次進行を主体としていますが、後半で音が高くなりパッションが炸裂してから徐々に沈静してゆく流れが見事です。

⑱オケゲム(Johannes Ockeghem, c. 1420-1497)の三声ロンドー〈私は恵まれない振られた女(La despourveue et la bannye)〉(US-Wc M2.1.L25 Case (Laborde), 61v-62r)は師バンショワに似て上二声が平行や反行を繰り返していますが、最下声の流れがとても細かく、緻密に調整された内声が美しく動いて、常に和音が移り変わるように書かれ、推敲を重ねたことが分かり、別れた悲しみがしみじみと表現されていました。オケゲムは情感のひだを細やかな動きで表すのが得意です。バンショワの哀悼歌(Déploration sur la mort de Binchois)の四声モテット歌曲〈死よ、そなたは矢で傷つけてしまった/憐れみたまえ(Mort, tu as navré de ton dart/Miserere)〉(F-Dm MS 517 (Dijon), 166v-168r)は下三声の強烈なバスとテノールの響きを持つラテン語の歌詞の三声モテットにフランス語のバラード型式の旋律を加え、彼のモテットやミサ曲で頻出する全音・半音の上下があり、短六度が強烈に響き、師を失う悼みがよく突き刺さるように聴こえました。

定旋律(tenor)に対する対旋律(contratenor)を上(altus)と下(bassus)に分けるか、三声の構造に縫うようにまたはある声部に沿うように内声を加えるか、上に外声を書き加えるかして、四声をされていました。三声では確かに三和音とその転回形などの変形の響きがしますが、時間の流れによる和音の漂い、即ち和声を実現するため四声が主体になり、そうした基本構造(対位法や和声法)が確立しました。機能和声という言葉を使うのは厳密には厳しいですが、ケクラン(Charles Koechlin, 1867-1950)の《和声の変遷(Traité de l'harmonie)》(1923-26年)などで論じられますよう、ドビュッシーやフォーレらが用いた和声は教会旋法と結びつき、ブルゴーニュ楽派では和音の動きを感覚で捉えて活用したことは明らかでした。以降はルネサンス期を通じて、多声音楽は分割合唱から管弦楽法、声楽から器楽への転用や応用などに向かい、音域と規模の拡大をされましたが、15世紀までに西洋音楽の基本構造はほぼ完成していたと実感できました。

音楽の構造の変遷を追跡して、音楽の発生から基礎の確立まで一つずつ積み上げ、最後は駆け足でしたが、2時間15分で終わりました。以上は取り上げました作品の全ての題と作曲者また中世の筆写譜の一覧です。現代譜は有名どころでは、アメリカ音楽学会(The American Institute of Musicology)の定量記譜音楽集(Corpus Mensurabilis Musicae)、ロワゾリル(Éditions de l'Oiseau-Lyre)やA-Rエディション(A-R Editions)などが入手できます。中世写本のパートスコアや現代訳譜のフルスコアから、音楽ノートに多声音楽の声部をまとめたコンデンススコアを作ると分かりやすくなり面白いです。写本・楽譜・音源などの資料につきましてはお気軽にお問合せ下さい。CDの情報やデータを差し上げます。

音楽に限らず人類の文化を試行錯誤を繰り返して探求してまいりたく存じます。今後ともご交誼・ご教示のほど、宜しくお願い申し上げます。皆さまが素晴らしいチャーミングな音楽でお喜びになられるだけでも感激ですが、皆さまがお互いに交流してくださりました様子を嬉しく拝見しておりました。長文をお読み下さり感謝申し上げます。一日をかけて何度か推敲いたしましたが改訂します。おかげさまで完全燃焼いたしまして音楽芸術へのパッションも炸裂しまして、これで悔いもなく、楽しく年を越せます。ありがとうございました。皆さまも楽しいクリスマスと良いお年をお迎えください。

Magister Leoninus. Viderunt omnes
[Organum à 2, I-Fl MS Pluteus 29.1, 99r]

2018年11月17日

いつもありがとうございます。中世・ルネサンスは西洋音楽の基礎(対位法や和声法など)が構築された重要な時期ですが、日本では馴染みが薄いかもしれません。当日まで一月ほどございますので図書館などでお借りになりお読みになる時間もあると思いまして、日本語で読むことができる重要な書籍をお伝えしたいと思います。音楽サロンは前提知識を必要とせず、グレゴリオ聖歌から初期ルネサンスの多声歌曲まで聴きますが、何かしらお読み下されば、親しみが湧いてより楽しまれます。

• 水嶋良雄 (1999). グレゴリオ聖歌, 白水社. [Jean de Valois (1953). Chant grégorien, Paris: Presses

• Jean de Valois;水嶋良雄:《グレゴリオ聖歌》(東京:白水社,1999年)[Jean de Valois (1953). Chant grégorien, Paris: Presses universitaires de France.]
• 今谷和徳:《中世・ルネサンスの社会と音楽》(東京:音楽之友社,1983年)
• Heinrich Besseler;Peter Gülke:《人間と音楽の歴史 3第5巻:多声音楽の記譜法》(東京:音楽之友社,1985年)
• 皆川達夫:《西洋音楽史:中世・ルネサンス》(東京:音楽之友社,1986年)
• Thrasybulos Georgios Georgiades;木村敏:《音楽と言語(講談社学術文庫)》(東京:講談社,2010年)
• 金澤正剛:《中世音楽の精神史》(東京:河出書房新社,2015年)

オックスフォード音楽小史(The Concise Oxford History of Music)

名著の翻訳が掲載されています。

新西洋音楽史に基づく架空講義

グラウト=パリスカに準拠してユーモアたっぷりに説明されています。

以下は今回のテーマに関する名著として知られる専門書(英語・フランス語・イタリア語・ドイツ語)です。
• Heinrich Besseler (1950). Bourdon und Fauxbourdon, Leipzig: Breitkopf & Härtel.
ブルゴーニュ楽派研究の先駆者ベスラーがフォーブルドンの成立について研究した著作です。
• Ernst Křenek (1953). Johannes Ockeghem, New York: Sheed & Ward.
現代音楽の作曲家クルシェネクがオケゲムについて書きました。ストラヴィンスキーはマショーに興味を持つなど、中世音楽は現代音楽に多大な影響を与えました。
• Carl Parrish (1957). The Notation of Medieval Music, New York: W. W. Norton.
中世音楽の記譜や様式について第一資料に基づいて書かれています。
• Ernest Trumble (1959). Fauxbourdon: An Historical Survey, Brooklyn: Institute of Medieval Music.
ディスカントゥスやフォーブルドンの起源と発展が書かれています。
• Frank Lloyd Harrison (1963). Music in Medieval Britain, London: Routledge.
中世イングランド(リオネル・パワーやダンスタブルなど)の音楽について書かれています。
• Charles Hamm (1964). A Chronology of the Works of Guillaume Dufay, Princeton: Princeton University Press.
メンスレーション(定量記譜法における音価指定)により、作曲時期を特定できることを示唆した重要な研究です。
• Eugène Cardine (1970). Sémiologie grégorienne, Solesmes: Abbaye Saint-Pierre.
 水嶋良雄:《グレゴリオ聖歌セミオロジ》(東京:音楽之友社,1979年)
グレゴリオ聖歌のネウマ記譜について書かれています。
• Viola Luther Hagopian (1973). Italian Ars Nova Music, Berkeley: University of California Press.
北イタリアのトレチェント音楽について書かれています。
• Craig Wright (1974). Music at the Court of Burgundy, 1364–1419, Henryville: Institute of Mediaeval Music.
ブルゴーニュ宮廷の音楽事情について書かれています。
• David Fallows (1982). Dufay: The Master Musicians, London: Dent.
デュファイの生涯を行政文書や楽譜資料を駆使した詳細な伝記です。
• Andrew Tomasello (1983). Music and Ritual at Papal Avignon 1309–1403, Ann Arbor: UMI Research Press.
アルス・スブティリオル期アヴィニョン教皇庁について書かれています。
• Mark Everist (1985). Polyphonic music in thirteenth-century France, New York: Garland.
ノートルダム楽派からアルス・ノーヴァについて書かれています。
• Clemens Goldberg (1992). Die Chansons Johannes Ockeghems, Laaber: Laaber-Verlag.
オケゲムの多声歌曲について書かれています。
• Theodore Karp (1992). The polyphony of Saint Martial and Santiago de Compostela, Oxford: Clarendon Press.
アキテーヌ地方のサン・マルシャル楽派やパリのノートルダム楽派について書かれています。
• Reinhard Strohm (1993). The Rise of European Music: 1380-1500, Cambridge: Cambridge University Press.
「ヨーロッパ音楽の誕生」と題され、中世末期から初期ルネサンスまで書かれています。
• Kevin N. Moll (1997). Counterpoint and Compositional Process in the Time of Dufay, New York: Garland.
中世末期から初期ルネサンスの作曲システムを研究した著作です。
• François Reynaud (1999). Guide de la musique du Moyen Âge, Paris: Fayard.
中世音楽の権威たちが寄稿した中世音楽概論で読み応えがあります。
• Andrew Kirkman; Dennis Slavin (2000). Binchois Studies, Oxford: Oxford University Press.
バンショワを専門とする研究です。
• Philippe Vendrix (2003). Johannes Ciconia: musicien de la transition, Turnhout: Brepols.
チコニアを専門とする研究です。
• Francesco Zimei (2004). Antonio Zacara da Teramo e il suo tempo, Lucca: Libreria Musicale Italiana.
ザッカーラと周辺を専門とする研究です。
• John Louis Nádas, Michael Scott Cuthbert (2009). Ars nova: French and Italian Music in the Fourteenth Century, Burlington: Ashgate.
アルス・ノーヴァ期のフランスとイタリアの音楽が書かれています。
• Elizabeth Eva Leach (2011). Guillaume de Machaut, Ithaca: Cornell University Press.
ギヨーム・ド・マショを専門とする研究です。
• Timothy J. McGee (2013). Medieval Instrumental Dances, Bloomington: Indiana University Press.
中世舞曲の資料や様式を専門とする研究です。
• Alejandro Enrique Planchart (2018). Guillaume Du Fay: The Life and Works, Cambridge: Cambridge University Press.
ギヨーム・デュファイを専門とする最新の研究です。

2018年12月1日

いつもありがとうございます。西洋音楽の歴史を遡れるだけ遡れば、古代ギリシア音楽は地中海東部(ヘレニズム)で断片しかないため別として、ネウマ記譜による単旋律聖歌に到ります。ローマ典礼以前には、古スペイン(モザラベ)典礼、古ガリア典礼、古ケルト(アイルランド)典礼、ベネヴェント典礼、古ローマ典礼がありましたが、後のネウマ譜でかろうじて残されるか、ローマ典礼に吸収されて残されたため、確かに辿りえる最古の音楽は、(通称)「グレゴリオ聖歌」のローマ(フランク)典礼とミラノ(アンブロジウス)典礼のみです。故に西洋音楽の歴史を説き起こすには、「グレゴリオ聖歌」が最古でクリスマスの日中のミサの昇階唱(graduale)が最適です。降誕節(クリスマスの時期)や復活節(イースターの時期)の聖歌は最古層まで遡れます。

9世紀終わりから13世紀初めまでネウマ譜により、先唱者(cantor)が手振りで高低や緩急を示したカイロノミ(chironomia)やアクセントや疑問符など文法記号が紙に書き下された記号から、古フランク式やブルターニュ式がフランス、スペイン、アキテーヌ、イギリス、イタリア、ドイツに伝承して、角型に変化(ゴシック化)して音高が正確に表示される過程が分かります。最初期は音と音の間のつながり、音の高さの動き方を示しましたが、徐々に音の高さや長さを粒で示すようになり、モード記譜法などリズム表記の試行錯誤を重ね、計量記譜法で基準時間を完全分割(三分割)か不完全分割(二分割)して書かれるようになりました。教会音楽や声楽で発達して、世俗音楽や器楽に応用され、瞬間に消える音楽の記譜に対する先人の工夫が感じられます。

特に最初期のネウマ譜を見ながら聖歌を聴きますと、音楽はそもそも絶対的な音の高さより、相対的な音の入り方や移り方など、単音ではなく音程の変化や関係に多くの情報があることが分かります。ザンクト=ガレン写本(CH-SGS 376, 99r)のドイツ式ネウマ譜の記号と音楽が対応していて興味が尽きません。しかも、音の高さを上げなさい(levare)、音の高さは同じ(aequaliter)、音の高さがぐんと下がる(inferius)、早くしなさい(celeriter)、伸ばしなさい(tenere)、押し出す(pressionem)など、ラテン語の頭文字もネウマの上に小さく書かれています。実はソレム修道院の歌い方と古ネウマとは音のつなぎ方や細かな動きなど流れが異なりますが参考までに付けます。また、英語ですがバーゼル大学のクリアな説明で記号と音楽の見事な対応が分かります。

How does a medieval voice sound? (futurelearn.com)

今回は単旋律が多声化され、対位法や和声法を生み出されたこと、先人が試行錯誤の結果をどのように表記したかを現物を見ながら、西洋音楽とは何かが見えてくるよう、感激と興奮が得られるように努めます。ゼロから一つずつ積み上げてゆきますため、前提知識を必要としないどころか、前提知識がないほうが、新鮮でわくわくすると思います。詳しくは《人間と音楽の歴史》(音楽之友社)のブルーノ・シュテープライン:《単音楽の記譜法》、ハインリヒ・ベッセラーとペーター・ギュルケ:《多声音楽の記譜法》に詳しく書かれています。ウージェーヌ・カルディーヌ著;水嶋良雄訳:《グレゴリオ聖歌セミオロジ》でネウマ譜の読み方はきちんと分かりますが、通常は接する機会が少ない資料をお示しながら、感覚的にお話しますので珍しい体験となると思います。

師走になり寒さが深まりますが、良い年の瀬をお過ごし下さいませ。

ザンクト=ガレン写本(CH-SGS 376, 99r)のドイツ式ネウマ譜(Puer natus est)

2018年12月12日

いつもありがとうございます。今回もお忙しい師走にも関わらず、皆さまから反響があり、心より感謝しております。いよいよ一週間前になりました。ご期待にお応えできますよう、今まで生きてこれて良かったほど深い感銘となり、人生観や音楽観が一変するご体験となりますよう、直前まで要点を何度も確認し工夫を重ねております。

中世・ルネサンス音楽と触れ合うことで声楽のポリフォニーの構造を楽器に移して表現してきた歴史により、ピアノ演奏、弦楽四重奏、オーケストラでも、あらゆる音楽をそこから導き出せるようになり、人生観や音楽観が一変します。記譜法・対位法・和声法など根本の構造において、以降のあらゆる西洋音楽の直系の先祖だからです。

実践的に作曲・演奏・鑑賞に役に立ちますよう、今までいろいろと考えて試してまいり、最高の実作を当時の楽譜で大量に体験する方法が、声楽のイメージが楽器で表現され、音楽が自然に流れて感銘が深まり、感性の開発に最適と感じております。新しい発見の連続で常識を打ち破られて快感の鮮度が上がり続けやみつきになりました!

当日の2時間強では、多声音楽の起源と変遷の系譜の概略を描いて最高の作品を聴いて楽しむことしかかないませんが、本当は心で受け止め、体に染み込むまで、楽譜などの資料に向き合い、音楽を頭の中でイメージしながら、音楽の感覚を常に磨き続けることにより、実践に活かされて感慨が深まり人生が豊かになると考えております。

中世・ルネサンス音楽を普段はお聴きにならない方こそ、至高の音楽世界をシェアーしたいです。また、普段から馴染み深い方は愛着が湧き、お楽しみになれます。音楽を愛する方、そうでない方も、音楽を愛する感激が増して、総ての方にとりまして、中世・ルネサンス音楽が大切となりますため、ご友人をお誘いの上いらして下さい。

ダンスタブルの三声モテット〈あなたは何と美しく、そして魅力がある愛すべき人であろう(Quam pulchra es et quam decora carrissima in deliccis)〉は温雅で包み込む優しい響きに聖母マリアの美しさを讃えた愛くるしい歌詞を持ち、中世の奇蹟としても過言ではありません。デュファイがこれを知っていた可能性は極めて高いです。

「来たれ(Veni)」で速度を落として甘美な響きをなしますが、デュファイの三声モテット〈救い主のうるわしき母(Alma redemptoris mater)〉の最終の「めでたき祝詞を(Sumens illud ave)」で甘美な三度を主体としたディスカントゥスの響きに見られるからです。また、モデナB写本とトレント92写本で両作品は同居しています。

Grande Bible historiale complétée(1395-1401年・F-Pn fonds français 159, 277v)
John Dunstable [c. 1390-1453] Quam pulchra es(I-MOe MS α.X.1.11 (ModB), 83v–84r

2018年12月18日

いつもありがとうございます。いよいよ明日になりました。午後7時から始まりますが、午後6時からお部屋でお話しできます。当日は中世の写本や現代の訳譜をプロジェクターで投影して、音楽を聴きながら、どんな発想、どんな工夫、どんな感激があるか、実況中継でありのままにおしゃべりいたします。

音楽の起源から中世を通してルネサンスの入り口まで音楽の構造を0から1つずつ足し引きして、作曲者の考えや思い、発想や思考などを明快にして、作曲・演奏・鑑賞のヒントになりますように努めます。何もない所から少しずつ進んでゆくため、前提知識なく先人の工夫をエキサイティングに体験します。

音楽芸術へのパッション、音楽の捉え方や感じ方、人間の考え方や思い方を実感でき、ユーモアと感激にあふれた楽しい音楽と人類の歴史の旅になります。お友達をお誘いの上、足をお運び下さりましたら幸いです。途中からいらしていただきましても大歓迎です。お会いできますこと楽しみにしております。

師走のお忙しい時期でいらっしゃれない方も温かいお言葉かけありがとうございました。またお会いできます日を楽しみにしております。

Guillaume Dufay & Gilles Binchois
[Martin le Franc (1451) Le champion des dames, F-Pn fonds français 12476]
F-Pn Coll. Roths, MS 2973, 38v-40r

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