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ノートルダム楽派から大バッハまで対位法と変奏法の伝統

Johannes Ockeghem. Missa Prolationum à 4 [V-CVbav Chigi C.VIII.234, 106v]

いつもありがとうございます。音楽サロンの構想が急に降りてきました!第九回目は対位法と変奏法の歴史を取り上げます。毎回そうお話ししますが、今回も過眼してきた資料を思い返して盛り込み、集大成をする熱意を注ぎ込んで組み立てました。

言語と音楽はいかなる時代や地域にも存在して、其々の思考や性格を発揮しています。それらを通観して、同一性と相違性、普遍性と特殊性が明らかになり、伝承と創造の瞬間が鮮やかに感じられます。

発想や技術が点から点に伝わり、線が連なり、解け、また結びつき関わり合う人の営みで育まれてきた多様な文化を通観して、創造の現場にいるように感激を味わい、先人たちの思いや考えに迫れます。

楽譜や文献は勿論、リュート・テオルボ・ビウエラ・鍵盤楽器の指法譜、フランス宮廷の舞踏譜、服飾や建築など、当時の社会や生活を偲べる資料を駆使しながらあらゆる側面から掘り下げてゆきます。

特に即興が作曲に与えた影響は重大ですが、変奏や装飾などは生まれたと同時に消えてしまい残されませんが、作曲の発想や方法の中に見られる名残を掬い上げ、即興の実態を窺い知ることができます。

ラテン語・フランス語(オイル語)・プロヴァンス語(オック語)・カタロニア語・イタリア語(トスカーナ語)・スペイン語(カスティーリャ語)・中世英語・ドイツ語等により西欧全土に亘ります。

合唱・独唱・リュート・テオルボ・ビウエラ・ヴィオール・バロックギター・ヴァイオリン・オルガン・チェンバロ・ヴァージナル・クラヴィコード・管楽合奏・弦楽合奏とあらゆる楽器に関わります。

中世から近世の音楽は、特定の楽器の音色に依存することなく、精緻に設計されているため、汎用性が高くありながら、楽器それぞれで演奏されたとき、全く異なる音世界を味わえる魅力があります。

人類の文化がどのような根本の構造を持つか、音楽の構造や発想の伝承と変遷を例として見てゆきます。楽譜に親しみのない方も、音楽を聴きながらお楽しみになれますように工夫を重ねております。

ホームパーティのようなアットホームな集まりです。お友達とお誘い合わせの上、お気軽にいらして下さいませ。皆さまとお会いできますことを楽しみにしております。ありがとうございました。

La généalogie des polyphonies et des variations
de l'École de Notre-Dame à Jean-Sébastien Bach


ノートルダム楽派から大バッハまで対位法と変奏法の伝統

前半はノートルダム楽派から中世イングランド・ブルゴーニュ楽派・フランドル楽派のカノンを取り上げ、後半はビウエラ・リュート・ヴィオール・鍵盤楽器などの変奏曲を原典まで遡及して引用しながら、音楽表現を明らかにして楽しめますように努めてまいります。

特に長大な歴史と大量の作品を接したとき、共通の構造や創造の思路を発見できます。漢字を六書の原理で整理した許慎の《説文解字》や幾何学を五つの公理で構築したユークリッドの《原論》と同じく、大量の音楽は少数の原理で構成されることが帰納的に分かります。

音楽は音の長さと高さに帰着します。ですから、固執低音や音価分割による変奏、平行和声や伴奏関係などホモフォニー、旋律や楽句をぴたりと重ねる、ずらして重ねるなどポリフォニーやヘテロフォニーを組み合わせあらゆる音楽が構成されることを確かめてゆきます。

2021年7月4日(動画増補)

レオニヌス 雷奧寧 Leoninus [c.1125-1201] 二声オルガヌムOrganum à 2. Haec Dies [I-Fl MS Pluteus 29.1, 108r-109r]

ウィッチベリーのウィリアム 惠治伯雷的威廉 William of Whichbury 四声カノン Rota à 4. Sumer is icumen in [GB-Lbl Harley 978, 11v]

ドゥニ・ルグラン 德尼·羅格朗 Denis Le Grant [c. 1290-1352] 三声カノン Chace à 3. Se je chant mains que ne suelh [I-IV MS 115, 52v]

ロレンツォ・ダ・フィレンツェ 洛倫佐·達·翡冷翠 Lorenzo da Firenze [c. 1320-1373] 三声カッチャ Caccia à 3. A poste messe [Squarcialupi, 49v-50r]

バークレー写本 伯克利手抄本 Berkeley Theory Manuscript 三声バラードBallade à 3. En la maison Dedalus [US-BE 744, 31v]

モンセラートの朱い本 蒙特塞拉特紅皮書 Llibre Vermell de Montserrat 三声カノン Caça à 3. O Virgo Splendens [E-MO MS 1, 21v-22r]

ギヨーム・ド・マショー 紀堯姆·德·馬肖 Guillaume de Machaut [c. 1300-1377] 三声ロンドー Rondeau à 3. Ma fin est mon commencement [R14]

ファエンツァ写本 法恩紮手抄本 Faenza Manuscript 鍵盤用タブラチュア De toutes flours n'avoit et de tous fruits [I-FZc MS 117 (Faenza), 37v-38v]

ボード・コルディエ 博德·科爾迪埃 Baude Cordier dit Fresnel [1364-1398] 四声カノン Canon à 4. Tout par compas suy composes [F-CH MS 564 (Chantilly), 12r]

マッテオ・ダ・ペルージャ 利瑪竇·達·佩魯賈 Matteo da Perugia [c.1360-1416] 三声カノンCanon à 3. Andray soulet [I-MOe MS α.M.5.24 (ModA), 40v]

ヨハンネス・チコニア 約翰內斯·奇科尼亞 Johannes Ciconia [1373-1412] 二声カノンCanon à 2. Le ray au soleyl [I-PEc MS 3065 (Lucca), LXXXIII]

ジャン・ピカード 尚·皮卡德 Jehan Pycard alias Vaux 四声カノン Sanctus à 4 [GB-Lbl Add. MS 57950 (Old Hall Manuscript), 100v]

ジョン・ダンスタブル 約翰·鄧斯泰布爾 John Dunstable [c. 1390-1453] 三声カノン Puzzle-canon III à 3 [GB-Lbl Add. MS 31922 (Henry VIII), 36v–37r]

ジョン・ダンスタブル 約翰·鄧斯泰布爾 John Dunstable [c. 1390-1453] 五声カノンRota/round à 5. Gloria [EV-Ttm ETMM M8.2_1-1]

ギヨーム・デュファイ 紀堯姆·迪費 Guillaume Dufay [1397-1474] 四声グローリア Gloria ad modum tubae à 4 [I-TRcap MS BL (Tr 93), 161v-162r]

ギヨーム・デュファイ 紀堯姆·迪費 Guillaume Dufay [1397-1474] 四声ミサ曲 Missa Ave regina caelorum à 4 [B-Br MS 5557, 110v-120v]

ヨハネス・オケゲム 約翰內斯·奧克岡 Johannes Ockeghem [c. 1410-1497] 四声ミサ曲 Missa Prolationum à 4 [V-CVbav Chigi C.VIII.234, 106v-114r]

ヨハネス・オケゲム 約翰內斯·奧克岡 Johannes Ockeghem [c. 1410-1497] 三声ロンドー Rondeau à 3. Prenez sur moi [DK-Kk MS Thott 291, 8°, 39v]

アントワーヌ・ビュノワ 安托萬·比努瓦 Antoine Busnois [c.1430-1492] 三声ロンドー Rondeau à 3. A vous sans autre [F-Dm MS 517 (Dijon), 21v-22r]

ジョスカン・デ・プレ 若斯坎·德普雷 Josquin Desprez dit Lebloitte [c. 1450-1521] 五声ミサ曲 Missa Pange lingua à 5 [A-Wn Cod. 4809 Han, 1v-22r]

ピエール・ド・ラリュ 皮埃爾·德·拉·魯 Pierre de la Rue [1452-1518] 五声ミサ曲 Missa L'Homme Armé à 5 [D-Ju MS 22, 30v-42r]

ヤーコプ・オブレヒト 雅各布·奧布雷赫特 Jacob Obrecht [1457-1505] 四声カノン Fuga in unisono à 4 [I-Rc MS 2865, 92r]

ジョン・レッドフォード 約翰·雷德福 John Redford [1486-1547] ファーバドン O Lux. On the fauxbourdon [The Mulliner Book, 31v-33v]

リチャード・サンプソン 理查德·桑普森 Richard Sampson [c.1500-1554] 四声カノン Canon à 4. Salve Radix [GB-Lbl Royal 11 E. xi, 2v-3r]

ルイス・デ・ナルバエス 路易斯·德·納瓦耶斯 Luis de Narváez 変奏曲 Diferencias sobre 'Guárdame las vacas' [Romanesca] [Delphín, 86v-88v]

エンリケス・デ・バルデラーバノ 恩瑞克斯·德·瓦德拉班諾 Enríquez de Valderrábano 変奏曲 Diferencias sobre la pavana [Silva de Sirenas, 93r-95v]

ディエゴ・オルティス 迭戈·奧提茲 Diego Ortiz レセルカーダ Recercada quarta sobre la folia [Trattado de Glosas, 52v-54r]

アントニオ・デ・カベソン 安東尼奧德·卡貝松 Antonio de Cabezón [1510-1566] 変奏曲 Diferencias sobre el canto llano del Cavallero [Obras, 189r-190r]

ウィリアム・バード 威廉·伯德 William Byrd [1543-1623] グラウンド My Ladye Nevels Grounde [My Lady Nevells Booke, 1r-8r]

ヤン・ピーテルスゾーン・スウェーリンク 揚·皮泰爾索恩·斯韋林克 Jan Pieterszoon Sweelinck [1562-1621] 大公のバレット Balleth del granduca [SwWV 319]

㉛アレッサンドロ・ピッキニーニ 亞歷山德羅·皮奇尼尼 Alessandro Piccinini [1566-1638] サラバンダとチャッコーナ Saravanda alla Francese & Chiaccona in partite variate [Intavolatura II, 20 & 49]

クラウディオ・モンテヴェルディ 克勞迪奧·蒙特威爾地 Claudio Monteverdi [1567-1643] チャコーナ Ciaccona. Zefiro torna [SV 251]

ジョヴァンニ・ジローラモ・カプスペルガー 喬萬尼·吉羅拉莫·卡斯貝爾格 Giovanni Girolamo Kapsperger [1580-1651] カナリオ Canario [Libro quarto]

ジローラモ・フレスコバルディ 吉羅拉馬·弗雷斯科巴爾迪 Girolamo Frescobaldi [1583-1643] フォリアによる変奏 Partite sopra Folia [Toccate I, 63-65]

ファン・アラニェス 胡安·阿拉涅斯 Juan Arañés [c.1590-1649] ビリャンシコ Villancico à 4. Un sarao de la Chacona [Tonos y villancicos II, 22-23]

ビアジオ・マリーニ 比亞焦·馬裡尼 Biagio Marini [1594-1663] パッサカリオ Passacalio à 3 & à 4 [Per ogni sorte di strumento musicale, Opus 22/25]

タールキニオ・メールラ 塔奎因尼奧·梅茹拉 Tarquinio Merula [1595-1665] ルッジェロ Ruggiero à 2. Violini, & à 3 col Basso [Opus 12/8]

フランソワ・デュフォー 弗朗索瓦·杜福 François Dufault [1604-1672] サラバンドと変奏 Sarabande [et Double]. Tombeau du Roy d'Orange [CLFDuf N°66]

ジャック・ガロ 雅克·加洛 Jacques Gallot [c.1625-1696] スペインのフォリア Les Folies d'Espagne [Pièces de Luth, 71-77]

ルイ・クープラン 路易·庫普蘭 Louis Couperin [1626-1661] シャコンヌ Chaconne in F [F-Pn Rés.Vm7 675, 24r]

ジャン=バティスト・リュリ 讓-巴普蒂斯特·呂利 Jean-Baptiste Lully [1632-1687] パッサカーユ Passacaille d'Armide [Pécour, Nouveau recüeil, 79-86]

ベルナルド・パスクィーニ 伯納多·帕斯奎尼 Bernardo Pasquini [1637-1710] ベルガマスカと変奏 Partite diversi di bergamasca [D-B Mus. ms. L 215, 340]

ディートリヒ・ブクステフーデ 迪特里克·布克斯特胡德 Dieterich Buxtehude [1637-1707] アリアと変奏 Aria. La capricciosa, partite diverse [BuxWV 250]

ド・ヴィゼー 羅貝爾·德·維賽 Robert de Visée [c.1650-1725] シャコンヌ Chaconne en sol majeur [F-B ms. 279152 (Saizenay I), 288-289]

アルカンジェロ・コレルリ 阿爾坎傑羅·科雷利 Arcangelo Corelli [1653-1713] ラ・フォリア La Follia [Opus 5/12]

マラン・マレ 馬蘭·馬雷 Marin Marais [1656-1728] ラ・フォリア Couplets de folies [Pièces de viole, Livre II, 20]

ヘンリー・パーセル 亨利·普賽爾 Henry Purcell [1659-1695] 全音階によるグラウンド A Ground in Gamut [Z. 645; GB-Och 46, 64r]

ヤン・ディスマス・ゼレンカ 揚·迪斯馬斯·澤倫卡 Jan Dismas Zelenka [1679-1745] カノン 9 Canoni à 3 [ZWV 191] & 序曲 Ouverture concertanti à 7 [ZWV 188]

ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル 格奧爾格·弗裡德裡希·韓德爾 Georg Friedrich Händel [1685-1759] シャコンヌ Chaconne mit 62 Variationen [HWV 442]

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ 約翰·塞巴斯蒂安·巴赫 Johann Sebastian Bach [1685-1750] ゴールドベルク変奏曲 Goldberg-Variationen [BWV 988]

Milano, Biblioteca Nazionale Braidense (I-Mb), MS AC xiv.44, 1r

2019年12月21日

いつもありがとうございます。昨日もお忙しいところ、お集り下さりまして、いらっしゃれない方も温かいご声援を下さり、心より感謝申し上げます。おかげさまで11名の温かい集いとなりました。林さんはいつも受付から御茶菓子まで細やかなお心づかいを下さり心から感謝しております。羽住さんは楽譜の追跡や質問に対する回答の補足などサポートとフォローをしてくれました。皆さまが会場の設営をお手伝い下さり、本当に助かりました。ありがとうございました。

音楽を起源から変遷の系譜を考察する「系譜の手法」も比較言語学や系譜学から発想しました。歴史を掘り下げるとき、言語を身に付けるとき、言語の変遷や語源や字源の系譜を追跡して、人間の営みをその時その場にいた人たちの感覚で捉えられます。今回は約600年間を通観しました。レオニヌスは北宋が滅んだ頃(1127年)に生まれ、デュファイは明初、モンテヴェルディやフレスコバルディは清初、大バッハやヘンデルは乾隆15年(1750年)に亡くなりました。対位法と和声法を手がかりとして、カノンと変奏曲の歴史的実例を見ながら、音楽の構造がどのように変化して、基本の発想をどのように操作して、記譜、作曲、即興、演奏がされてきたか考察しました。西洋音楽は論理的かつ設計的なため、記譜が厳密で構造が明晰な様式が確立されました。長大な歴史と大量の作品を接して、共通の構造や創造の思路を発見、実際の作品を演奏や創造する方法を獲得できます。漢字を六書の原理で整理した許慎の《説文解字》や幾何学を五つの公理で構築したユークリッドの《原論》のように、大量の音楽は少数の原理で構成されます。複雑で多岐にわたる文化を数少ない要素に還元して、数少ない操作で実現することにより、効率的かつ本質的な理解をできます。

先ず古代の聖歌やその即興的朗唱(教会音楽)やトロバドゥールの歌曲や舞曲の旋律やリズム(世俗音楽)を集成して、西洋音楽における対位法の起源となりましたノートルダム楽派の《オルガヌム大全(Magnus Liber Organi)》で伝承される①レオニヌス(Leoninus, c.1125-1201)の作とされる二声オルガヌムOrganum à 2. Haec Diesの華麗対位法(contrapunctus floridus)によるメリスマ・オルガヌムから始めました。ペロティヌス(Perotinus, c.1160-1238)が纏めた《オルガヌム大全(Magnus Liber Organi)》(1170年頃)を伝えるフィレンツェ写本(I-Fl MS Pluteus 29.1, 108r-109r)によります。低音部にグレゴリオ聖歌(Haes dies)が引き延ばされて配置され、高音部はメリスマで細かな音で装飾されて、アキテーヌ式(サン=マルシャル楽派)を引き継ぎ、世俗音楽の中世舞曲に影響されたと思われるリズムがモーダル記譜で指示されており、低音主題による変奏法の元祖です。ノートルダム楽派の特徴として、低音が切り替わるとがらりと雰囲気が変わり、完全音程による音から上声の旋律が始まります。声楽の合唱でも、器楽のオルガンなどでも演奏されたと考えられます。②ウィッチベリーのウィリアム(William of Whichbury)の作と考えられる四声カノン Rota à 4. Sumer is icumen in /Sing cuckoo(1261-64年頃・GB-Lbl Harley 978, 11v)は中英語とラテン語の歌詞が併記されます。上四声はカノン(rota)、下二声は固執低音(pes)です。特に下の低音はノートルダム楽派の下声に相当しますが、リズミカルに動き、上の旋律も世俗歌曲でイオニア旋法(現在のヘ長調)で書かれており、明るい響きに満たされています。イングランドのウスター断片(Worcester Fragments)などから見られる三度の甘美な響きも用いられ安定感があります。しかもカノンの終わりで歌い抜け、少しずつ遠ざかる遠近感まで表現され、名残惜しそうにsing cuckooで終わりチャーミングです。少ない要素から豊かな表現を引き出されており、カノンはミニマル音楽(minimal music)の走りとも捉えられます。ラテン語でカノンが輪唱することから車輪(rota)と低音に配置されることから足(pes)に由来します。

③ドゥニ・ルグラン(Denis Le Grant, c. 1290-1352)の三声カノン Chace à 3. Se je chant mains que ne suelhはイヴレア写本(1361-84年・I-IV MS 115 (Ivrea), 52v)で伝わり、狩の歌(仏・英:chase、伊:caccia、オック語:caça)で見事に追いかけるようにして長い旋律がカノンをなします。内声の動きまできちんと計算され、細かい楽句が散りばめられて、歌詞が引き立つように設計されます。歌詞「もし普通の簡単で凡庸なものを歌うならば(Se je chant mains que ne suelh de la simple sans orguel)」と音楽が対応しています。声部間の対比や呼応の技法、音量の増減や音価の長短などの変化も見られ音楽性が豊かです。④ロレンツォ・ダ・フィレンツェ(Lorenzo da Firenze [Masi], c. 1320-1373)の三声カッチャ Caccia à 3. A poste messe veltr' e gran mastiniはパンチアティキ写本(1403-1432年・I-Fn MS Panciatichiano 26 (Panciatichi), 76v-77r)やスクアルチャルーピ写本(1415-19年・I-Fl MS Mediceo Palatino 87 (Squarcialupi), 49v-50r)で伝わり、トレチェント音楽らしく狩の様子を歌い、人の掛け声や犬の鳴き声など擬声語が多くリズミカルです。上二声が同度のカノンで低声部はリズミカルに上声を模倣しながら伴奏します。教会旋法から自由でリトルネッロの前はランディーニ終止です。前世紀にイスラム宮廷に接触したトルバドゥール(Troubadour)やジョングルール(jongleur)など、楽器を伴い歌唱した吟遊詩人や大道芸人が器楽の表現をもたらして、商業で豊かな北イタリアで開花しました。最小要素から展開できるカノンや平行和声による即興は実用にも適します。作曲技法は即興演奏や実用過程で生まれました。

⑤バークレー写本(Berkeley Theory Manuscript)の三声バラードBallade à 3. En la maison Dedalus(1375年頃・US-BE 744, 31v)はグイド(Guido d'Arezzo, 991-1050)の《音楽論(Tractatus de Musica)》を伝える写本に記されます。円形の楽譜で北フランスのアルス・スブティリオル期(Ars subtilior)を代表するカンティレーナ様式(cantilena)のシャンソンで宮廷愛が歌われます。オック語圏のトロバドゥールがオイル語圏のトロヴェールに継承された伝統に由来して旋律も美しいです。下二声がところどころで上声と完全音程を構成して、三度の音がないため虚ろな感情でふわりとした感覚です。外周がCantus、内周がTenorで下二声がTenor DuxとComesでカノンを成します。上半円は主題部、下半円はリフレインに当たります。フーガの基本となる主題(dux)と応答(comes)と対旋律(contrapunctus)を既に備えます。アヴィニョンの教皇庁でハープ奏者などが歌手に合わせて即興でデュオの伴奏を付けたように書かれています。⑥モンセラートの朱い本(Llibre Vermell de Montserrat)の三声カノン Caça à 3. O Virgo Splendens(1399年・E-MO MS 1, 21v-22r)はノートルダム楽派の行列歌(conductus)の様式で対位法(contrapunctus)の語源「一対一(punctus contra punctum)」に作られています。アキテーヌ型のメリスマ・オルガヌムのように終止感がある一節をずらして歌い合わせます。カリクストゥス写本(1173年・Codex Calixtinus・E-SC s.s.)やラス・ウエルガス写本(1319-33年・Codex Las Huelgas・E-BUlh s/n)に近いです。バルセロナのミサ(1360年頃・Missa Barcinonensis・E-Bbc MS 971; 853c/d)でも同じ方法で多声化されました。中世末期に南フランスに接するカタルーニャのモンセラート修道院への巡礼者が歌いました時代性、地域性、実用性が感じられ、最初期の平行・反行・斜行オルガヌムによる古風で素朴で瞑想的なカノンです。

⑦ギヨーム・ド・マショー(Guillaume de Machaut, c. 1300-1377)の三声ロンドー Rondeau à 3. Ma fin est mon commencement(R14・US-KCferrell MS 1 (Vg), 321r; F-Pnm Français 1584 (A), 479v; 1585 (B), 309r・9221 (E), 136r; 22546 (G), 153r)は上声部(cantus/triplum)とモテトゥス声部(motetus/contratenor)は歌詞「私の終わりは始まりである」が上下逆さまに書かれており、同じ旋律を逆から歌い、また楽譜を反転して逆に戻りながら歌うカノンです。テノール声部(tenor)を伴い三声をなします。マショーの特徴として、内声がグネグネと動き、不協和音を絶えず生み、濁りのある厚みのある音をなしています。また、定型の音型を繰り返しパラフレーズする効率的に作曲できるイソリズム技法を好んで用いています。⑧ファエンツァ写本(Faenza Manuscript)の鍵盤用タブラチュア De toutes flours n'avoit et de tous fruits(1467-73年・I-FZc MS 117 (Faenza), 37v-38v)はマショーの三声バラード Ballade à 3. De toutes flours n'avoit et de tous fruits(B31・US-KCferrell MS 1 (Vg), 313r; F-Pnm Français 1584 (A), 470r; 1585 (B), 312r; 9221 (E),150v; 22546 (G), 144r-144v)を装飾変奏(colorista /alternatim)して、華麗対位法(contrapunctus floridus)をなしました。原曲は上声部(cantus/triplum)とモテトゥス声部(motetus/contratenor)とテノール(tenor)の三声ですが、ファエンツァ写本では上声部をトリルと主体とした分割変奏(divisio/diminutio)して、テノール声部が低音部に移されます。第二部(seconda pars)と第三部(tertia pars)が連なり、変奏曲の様式が既に現われ、定量記譜された分割変奏の元祖です。変奏の基礎として、グレゴリオ聖歌を引き延ばしてテノール声部に配置したノートルダム楽派の発想を継承します。中世では指定がなく任意の楽器で奏されました。聞き分けられやすいよう上はハープで下はヴィエールを選びました。

⑨ボード・コルディエ(Baude Cordier dit Fresnel, 1364-1398)の四声カノン Canon à 4. Tout par compas suy composesはシャンティ写本(1398年・F-CH MS 564 (Chantilly), 12r)で伝わります。「コンパスで私は作られた」の歌詞通りに円形に書かれ、外周部に書かれた上声部(suprinus)にコントラ(contratenor)が追いかけるように歌い、二声カノンを構成して、内周部に書かれたテノール(tenor)を伴います。三連符や色音符など特徴的なモチーフなどの組み合わせやクロスリズムにより、カノンが生き生きと聞こえるように工夫されています。⑩マッテオ・ダ・ペルージャ(Matteo da Perugia, c.1360-1416)の三声カノンCanon à 3. Andray souletはモデナA写本(I-MOe MS α.M.5.24 (ModA), 40v)で伝わる同度のカノンです。耳に馴染む流れの良い旋律を組み上げ、微妙な拍のずれを利用して、シンコペーションを生じさせます。半分あたりから旋律が複雑になり、特に最後は声部が呼応してストレットのように緊密です。彼はトレチェント音楽後期の最大の作曲家でフーガ(実際はカノン)による三声グローリア Gloria in excelsis Deo à 3も同じ写本(10v-11r)で伝わります。ザッカーラ(Antonio Zaccara da Teramo, c.1350-1413)と同じくフランスのアルス・スブティリオル期の音楽に影響された響きです。デュファイのミサ断章の模倣技法に影響を与えたことが作品伝承や作曲技法から分かります。

⑪ヨハンネス・チコニア(Johannes Ciconia, 1373-1412)の二声カノンCanon à 2. Le ray au soleyl qui dret som kar meyne(I-PEc MS 3065 (Lucca), LXXXIII)は「Canon: Dum tria percurris quatuor va[let]. Tertius unum subque diapa[son] sed facit alba moras.(三[連符]が四つの単位時間[に鳴らされ]、第三声は八度下に白[色音符]の遅れを伴う」と記され、最上声(triplum)は元の旋律が流され、中声部(cantus)は三連符が四拍分に当たるように同度に置かれ、最下声(tenor)は白色音符の長さで八度下にゆっくりと演奏されます。それにより、二拍子系と三拍子系が同時に流れてポリメトリック な効果を生みます。こうした離れ業をできる理由は中世音楽が計量記譜法のメンスーラ記号(mensula)によるからです。最後はランディーニ終止をしています。⑫ジャン・ピカード(Jehan Pycard alias Vaux 四声カノン Sanctus à 4はオールドホール写本(GB-Lbl Add. MS 57950 (Old Hall), 100v)で伝わり、上三声(Triplex)がカノンをなして、テノール(tenor)を伴います。三度の音程が使われ、安定した響きです。新たな声部や繰り返し句が聴こえるとき、特に高音の響きが純粋で力強く、順次進行を主体とした優雅な旋律が美しく際立ちます。マショーが得意とした休符をかませたしゃっくり音型(hoquetus)が多用され、大陸のシャンソン形式の影響も受けています。また、同写本でビタリング(Thomas Byttering)の二声カノン Gloria à 2(13v)やピカードの三声カノン Gloria à 3(15v)やCredo à 3(123r)も伝わります。この写本はパワー(Leonel Power, c. 1370-1445)、 スタージォン(Nicholas Sturgeon, c.1380-1454)、ヘンリー5世(Henry V, 1387-1422)、ダメット(Thomas Damett, 1389-1437)、ダンスタブル(John Dunstable, c. 1390-1453)らの作品を含みます。

(⑬ジョン・ダンスタブル(John Dunstable, c. 1390-1453)の三声カノン Puzzle-canon III à 3はヘンリー8世写本(GB-Lbl Add. MS 31922 (Henry VIII), 36v–37r)で伝わり、上二声は楽譜に書かれていますが、「A dorio tenor hic ascendens esse videtur. Quater per genera tetracordum refitetur(テノール声部はドリア旋法より上行するように見なす。四種のテトラコルドで繰り返される)」と記され、全ての旋法で奏でられます。ダンスタブル作としてかなり後の写本に記載されますため割愛しました。)⑭ダンスタブルの五声カノンRota/round à 5. Gloriaはタリン断片(EV-Ttm ETMM M8.2_1-1)で伝わり、「Presens cantus quatuor in se continent triplices, quorum unus semper post alium, quatuor temporibus tantum omissis, eodem modo secundus versus octo temporibus tamen omissis, et cetera. Quod Dunstaple.(提示される上声部の中に四声が含まれ、その内の一つは別の後[を追いかけ]、ただ四つの二全音符だけ[休んで]進む。第二部も同様に八つの二全音符を休んで進むなど、ダンスタブルは話した)」と記される新発見の作品です。上四声(Quadrex)がカノンをなしてテノール(tenor)を伴いますが、聖歌を即興で装飾をしたファバードン(faburden)による三度が有効に使われ安定した響きをなします。メンスレーションはʘ(tempus perfectum prolatio maior・9/8)ですが、Qui tollisからC(tempys imperfectum prolatio minor・2/4)になり、最後に戻り、複雑な音型が重なり、速度に変化を与える技法も、ブルゴーニュ楽派に受け継がれました。流麗で優雅な旋律ながら言葉に合わせ句の歯切れが良く、歌詞が聞き取りやすく、特に新しい旋律が入るところも流れが自然です。ティンクトーリス(Johannes Tinctoris, c. 1435-1511)が《音楽比例論(Proportionale musices, prohemium)》(1476年)で「この時代に至りて私たちの音楽は新しい技法と称すべき優れたものとなった。この新しい技法はダンスタブルを筆頭とするイギリス人と同時代のフランス人デュファイとバンショワが創始して、現代のオケゲム、ビュノワ、レギスとカロンへと直接継承された。彼らは私が今まで聴いてきた中で最も傑出していた(Quo fit ut hac tempestate, facultas nostrae musices tam mirabile susceperit incrementum quod ars nova esse videatur, cujus, ut ita dicam, novae artis fons et origo, apud Anglicos quorum caput Dunstaple exstitit, fuisse perhibetur, et huic contemporanei fuerunt in Gallia Dufay et Binchois quibus immediate successerunt moderni Okeghem [sic], Busnois, Regis et Caron, omnium quos audiverim in compositione praestantissimi.)」と評したことが分かります。縦の響きと横の流れが両方とも考慮されて、緊密に音程関係や旋律進行が見事に設計されております。

⑮ギヨーム・デュファイ(Guillaume Dufay, 1397-1474)の四声グローリア Gloria ad modum tubae à 4は1423年頃に書かれ、アオスタ写本(I-AO 15 (Aosta 15), 95v-96r)やトレント93写本(I-TRcap MS BL (Trento 93), 161v-162r)で伝わります。上二声が同度カノン(Fuga duorum temporum)をなして、テノール(tenor)とコントラ(contratenor)が二つのトロンボーン(tuba)で交互に演奏され、ステレオ効果がありながら、剽軽なファンファーレな固執低音をなします。上二声の同度カノン、下二声が模倣し合い、二重カノンのような様相を呈しています。上二声の細かさが絶えず変わり、楽句が繰り出されると長音価になるため、エコー効果があります。相互に最後には下二声の間隔が狭まり、追い上げて聴こえ、デュファイらしくチャーミングです。ダンスタブルは中低音あたりに重心がありますが、デュファイは中高音や最高音の優雅な旋律がユーモラスです。⑯デュファイの四声ミサ曲 Missa Ave regina caelorum à 4は1472年に書かれ、ブリュッセル5557写本(1480年頃・B-Br MS 5557, 110v-120v)やモデナ写本(1481年・I-MOe MS α.M.1.13, 159v-176r)で伝わり、KyrieのChristeは三声フーガ(Cantus - Fuga - Concordans cum fuga)で構成され、「Longa fugat bino, terno brevis in diapason(同度音程の長いカノンで三つの二全音符から八度上)」と記されます。「カノンに従う(concordans cum fuga)」と指示されており、上二声のカノン(cantus & contratenor)にバス声部(bassus)が付せられて三声になります。主題(dux)と応答(comes)と対旋律(contrapunctus)を備え、前半は細かい楽句が重なり合いエコー効果をなして、後半では音が長くなり、和声が変化して味わいが深まり、また最後に最上声が八度上に置かれて楽句が細かくなり推進力を増しています。大きく四つに分かれ、一分足らずの中に音楽に変化が与えられており驚異的な対位法です。

⑰ヨハネス・オケゲム(Johannes Ockeghem, c. 1410-1497)の四声ミサ曲 Missa Prolationum à 4はオーストリア国立図書館写本(1460年頃・A-Wn Cod. 11883 Han, 208r-221r)やチヒ写本(1498-1503年・V-CVbav MS Chigi C.VIII.234, 106v-114r)で伝わります。写本に二つの声部だけが記され、上二声(superius・contratenor)のメンスレーションはC(tempys imperfectum prolatio minor・2/4)・O(tempus perfectum prolatio minor・3/4)、下二声(tenor・bassus)のメンスレーションは₵(tempus imperfectum prolatio maior・6/8)・ʘ(tempus perfectum prolatio maior・9/8)が指定されます。即ち、音価の比率(prolatio)が3:2と異なる旋律で構成される拡大・縮小のカノンで四つの声部が得られます。ミサ曲では二つのカノンが同度から八度まで徐々に音程を上げて現れます。計量記譜法の機能を逆手に構成され、音の響きも趣があり、内声の動きで和音が滑らかに移り変わりオケゲムらしいです。⑱オケゲムの三声ロンドー Rondeau à 3. Prenez sur moi vostre exemple amoureuxはコペンハーゲン歌曲集(1469-73年・DK-Kk MS Thott 291, 8°, 39v)やヴェネツィアのペトルッチ(Ottaviano Petrucci)の出版譜(1504年・Canti C. N.° cento Cinquanta. [RISM 1503/4], 167v)で伝わり、歌詞「あなたの恋は私を手本にするとよい」の通り、四度ずつ高く模倣するカノンで三声を得ることができ、遊び心が感じられます。また、音程をずらした模倣により、感情の高潮を伴い、同じ楽句が旋律の間から聴こえ、特に喜び(pleasant)などの単語が強調され、旋律が重ね合わされて進んでゆくため、オケゲムらしい渋い響きを得ています。

(⑲アントワーヌ・ビュノワ(Antoine Busnois, c.1430-1492)の三声ロンドー Rondeau à 3. A vous sans autre me viens rendreはディジョン歌曲集(1465-69年・F-Dm MS 517 (Dijon), 21v-22r)とメロン歌曲集(1475-76年・US-NHub 91 (Mellon), 55v-56r)で伝わります。厳密な模倣のカノンではありませんため割愛いたしましたが、フガートに三声をなしており、特徴的なフレーズが所々でエコー効果をなします。ビュノワを始めとするブルゴーニュシャンソンではポリフォニックに旋律が別々に動くところとホモフォニックに和音をなして重く聞こえるところの対照が付けられます。ブルゴーニュ終止(四度平行)が多いです。通模倣様式に移行するとき、カノンの模倣技術が応用され刺激となりましたことが分かります。)⑳ジョスカン・デ・プレ(Josquin Desprez dit Lebloitte, c. 1450-1521)の五声ミサ曲 Missa Pange lingua à 5は1515年頃に書かれ、ラテラノ大聖堂写本(1513-23年・V-CVbav MS Pal. lat. 1982, 140v–151r)、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂写本(1516-20年・V-CVbav MS S. Maria Maggiore 26, 214v-229r)、パラティーノ礼拝堂写本(1518-23年・V-CVbav MS Pal. lat. 1980, 21v–27r)、オーストリア国立図書館写本(1518-20年・A-Wn Cod. 4809 Han, 1v-22r)、バイエルン州立図書館写本(1518-20年・D-Mbs Mus. MS 510, 42v-63v)、イェナー写本(1521-25年・D-Ju MS 21, 1v-18r)、オッコ写本(1525-34年・B-Br MS IV.922 (Occo), 28v-41r)で伝わり、1539年にニュルンベルクでHans Ottが出版しました。賛歌〈舌もて語らしめよ(Pange lingua)〉をパラフレーズして、定旋律(cantus firmus)を置くテノールでフーガ主題が示され、完全五度の上下にバス・ソプラノ・アルトが追いかけます。Kyrieの部分で長い主題でフーガを成します。デュファイと同じくChristeの部分で穏やかになり、厳格なカノンを用います。次のKyrieではフガートになり、反行型が多く、複雑に響きが移り変わります。三部構成で緩急の対照も与えられました。声部間の関連性が重要になり、カノンからパラフレーズの発想が生まれ、通模倣様式に発展しました。デュファイらしい下行音型が高音部に現れ、パレストリーナ(Giovanni Pierluigi da Palestrina, 1525-1594)が好んだなだらかな上行音型もあり、両者の間に位置する作品です。

㉑ピエール・ド・ラリュ(Pierre de la Rue, 1452-1518)の五声ミサ曲 Missa L'Homme Armé à 5はイェーナ大学図書館写本(1500年頃・D-Ju MS 22, 30v-42r)、ベルギー国立図書館写本(1505年・B-Br MS 9126, 28v-43r)、オーストリア国立図書館写本(1505年頃・A-Wn Cod. 1783, 229v-240v)、システィーナ礼拝堂写本(1513-21年・ V-CVbav MS Capp. Sist. 34, 9v-19r)で伝わり、デュファイやオケゲムと同じく民謡〈武装した人(L'Homme Armé)〉の旋律をパラフレーズして全楽章でカノンが用いられます。最高声部(discantus)で動機を繰り出すと他の声部で模倣され、コントラ声部(contratenor)や最低声部(bassus)とテノール声部(tenor)がカノンを構成することが多いです。また、最高声部とコントラ声部がフォーブルドンのような平行和声をなし、最低声部が和音の根音を取りながら、最高声部と模倣型や反行型を多くなします。特にKyrieで原歌曲の快活なリズムを外声(最高声部と最低声部)でよく表現して、Christeでカノンが厳格になり、Kyrieで平行和声の低音が分厚く響き、ジャック・バルビロー(Jacques Barbireau)やピプラール(Matthaeus Pipelare)など同年代の北方フランドルの音楽家と似た響きを有しています。Agnusは一本の旋律を別の速度で演奏して四声を得る特に高度な技法によります。㉒ヤーコプ・オブレヒト(Jacob Obrecht, 1457-1505)の四声カノン Fuga in unisono à 4はフェラーラ宮廷で作成された写本(1490年頃・I-Rc MS 2865, 92r)で伝わるファンファーレやヴィオール合奏など器楽のためのカノンです。上三声が同度カノンでエコー効果をよくなして、最低声がドローン低音をなします。フェラーラ公エルコレ1世に仕え始めた頃に祝典音楽として作られたと思われます。最低声部をオルガンやトロンボーンで演奏して、上三声のカノンを金管楽器で演奏すると盛り上がるからです。オブレヒトの二声カノン Fuga in unisono à 2がグラレアヌス(Henricus Glareanus, 1488-1563)の《ドデカヘドロン(Dodecachordon)》(1547年)で伝えられます。

(㉓ジョン・レッドフォード(John Redford, 1486-1547)のファーバドン O Lux. On the fauxbourdonはムリナー鍵盤曲集(1545-70年・GB-Lbl Add. MS 30513 (Mulliner), 31v-33v)で伝えられます。模倣・平行・斜行・反行などを用い、六つの細かい音符に分割変奏して、鋸型の音型は二本の旋律を表現していると考えられます。割愛しました。)㉔リチャード・サンプソン(Richard Sampson, c.1490-1554)の四声カノン Canon à 4. Salve Radix(1516年・GB-Lbl Royal 11 E. xi, 2v-3r)は「Canon fuga in diatessaron(四度上のカノン)」と記され、コントラ(contratenor)とバス(bassus)から二声ずつが得られて四声になります。イングランドで発達した平行和声(gymel)が使われ透明で玲瓏な響きです。導音で終止感が強く、声部間のやり取り、更にホモフォニックで和音の塊が降り注ぐように聞こえるように区部されます。フェアファックス(Robert Fayrfax, 1464-1521)やウィリアム・コーニッシュ(William Cornysh, c.1465-1523)の伝統を汲んでいます。イートン合唱曲集(1490-1502年・GB-WRec MS 178 (Eton Choirbook))やカイウス合唱曲集(1520年頃・GB-Cgc MS 667/760 (Caius Choirbook))の間でチューダー朝で発達した礼拝音楽の様式により清澄な作風です。同世代のジョン・タヴァナー(John Taverner, c.1490-1545)やクリストファー・タイ(Christopher Tye, c.1505-1572)がいます。

㉕ルイス・デ・ナルバエス(Luis de Narváez)の変奏曲 Diferencias (7) sobre 'Guárdame las vacas'(1538年・Los seys libros del delphín de música de cifras para tañer vihuela, 86v-88v)はビウエラのためのロマネスカ(Romanesca)の低音主題による変奏曲(diferencias)です。低音主題はパッサメッツォ・アンティコ(passamezzo antico / G-F-G-D♯)に対して、ロマネスカ(romanesca / B-F-G-D♯)です。分散和音(arpeggio)の主題、分割変奏(glosa)の流麗な旋律によります。通模倣様式でカノンと変奏曲が結合させ、上声部と下声部の楽句が対話したり、平行和声を活用して、ポリフォニーやホモフォニーを器楽で交替させます。短い曲の中に当時のあらゆる技法や発想が含まれております。また、器楽演奏されるようになり、低音や楽句でリズム感が生まれ初め、変奏曲の直接の元祖は撥弦楽器の特性から出ています。㉖エンリケス・デ・バルデラーバノ(Enríquez de Valderrábano)の変奏曲 Diferencias (4) sobre la pavana por grados(1547年・Libro de música de vihuela intitulado Silva de Sirenas, 93r-95v)はフォリア(folia)の低音主題による最も古い形態を伝えます。三和音が掻き鳴らされる合間に流麗な旋律が間をつなぎ、旋律が絡み合いながら音楽が進みます。当時のホモフォニックな多声歌曲や舞曲を一提のビウエラで表現します。パヴァーヌ(pavane)はパドヴァ風(padovana)、もしくは行進を孔雀(pavon)に見立てたともされ、快活なガイヤルド(gaillarde)と対の踊りとなりました。初めは垂直方向の響き(和音)に重点が置かれ、変奏を経るごとに水平方向の流れ(旋律)に向かい、音楽が流麗になります。

㉗ディエゴ・オルティス(Diego Ortiz)のレセルカーダ Recercada quarta sobre la folia(1553年・Trattado de Glosas, 52v-54r)はフォリア(folia)の低音主題が最上声(Cantus)とテノール(tenor)に顕著に表れます。バスヴィオールは分割変奏を用いて快活で流麗な旋律です。特にこの曲は装飾変奏(glosa)の方法を多数の実例で示した曲集の一つです。ガンバ(La Gamba)と同じ低音主題(d-C♯-d-E-F-E-d/C♯-d・i-V-i-VII-III-VII-i/V-i)でニ短調ですが、ドリア旋法らしさもあります。フランシスコ・デ・サリナス(Francisco de Salinas)が《音楽論(De musica)》第7巻(1577年)でポルトガル起源としたり、《パリ歌曲集(Cancioneiro de Paris)》(F-Peb Jean Masson 56)に〈黒の編み上げ靴(Não tragais borzeguis pretos)〉、1499年の《スペイン王宮歌曲集(Cancionero Musical de Palacio)》(E-Mp MS II/1335)に〈ロドリーゴ・マルティネス(Rodrigo Martínez)〉という民謡(villancico)が記録されますが、エンシーナ(Juan del Encina, 1469-1533)の「何故ならあなたは私たちを見ない(Pues que ya nunca nos veis)」は、四声の多声音楽ですがホモフォニックです。㉘アントニオ・デ・カベソン(Antonio de Cabezón, 1510-1566)の変奏曲 Diferencias sobre el canto llano del Cavallero(1570年・Obras de musica, 189r-190r)は四声の弦楽合奏を鍵盤楽器で表現して、特に外声(discantus)が分割変奏で細かくされ、長い音価の内声(contra)と平行や反行、保持低音を有しながら進みます。特に平行五度下降が効果的です。下二声(tenor・bassus)は平行和声を主体として長い音価で原曲の雰囲気を和声感覚の中に残しながら変奏されます。

㉙ウィリアム・バード(William Byrd, 1543-1623)のグラウンド My Ladye Nevels Grounde(1591年・My Lady Nevells Booke・GB-Lbl Mus.1591, 1r-8r)は低音主題による変奏(grounde)です。カベソンやダウランド(John Dowland, 156-1626)が欧州を周遊して、スペインやイタリアのビウエラやリュート、オルガンや鍵盤楽器などの音楽が北方のネーデルランドやイングランドに伝わり、独自のヴァージナル楽派をなしました。装飾音が豊かで弾むような和音がリズㇺ揺らぎを与え、合間に細かい旋律が聴こえ、表現がより洗練されました。終止で平行和声がみられ古風な響きをなします。小型鍵盤楽器(スピネットなど)を想定した繊細な音楽でトリルの揺らぎが独特で特に装飾を指示する二線(=)はクラヴィコードで長く使われたベーブリングを指示する二点(:)の元祖です。㉚ヤン・ピーテルスゾーン・スウェーリンク(Jan Pieterszoon Sweelinck, 1562-1621)の大公のバレット Balleth del granduca(SwWV 319・H-Bn Mus. ms. Bártfa 27, 35v–37r)は1589年のトスカーナ大公メディチ家のフェルディナンド1世がフランス王アンリ2世の孫娘クリスティーヌとの結婚式で披露されたカヴァリエーリ(Emilio de' Cavalieri, c.1550-1602)の幕間劇〈おお、何という新しい奇跡(O che nuovo miracolo)〉の舞曲(ballo)を低音主題とする変奏曲です。トランペットのファンファーレなども鍵盤で模されます。先ずは低音部に主題が現われ、高音部に置かれたり、左右で急速に交代させたり、実際の音響を平行和声で再現します。有名な舞曲か歌曲の旋律を名人が鍵盤楽器で即興演奏して披露した習慣から変奏曲が生まれたこと、ルネサンス末期にバロック音楽の最も大切な概念である通奏低音(basso continuo)が低音主題から展開する習慣から生じたこと、カンティレーナ様式の分割変奏で最上声が細かく、外声が突出して内声や下声が支えるモノディ様式(stile monodico)を生じたこと、更に通模倣様式や分割合唱を器楽に取り入れて表現して、楽句を対比させた協奏様式(stile concertato)が生じたことが分かります。和音をぶつける特に鍵盤楽器の特性から、拍節の強調が生じて演奏されるようになりました。

㉛アレッサンドロ・ピッキニーニ(Alessandro Piccinini, 1566-1638)のフランス風サラバンダ Saravanda alla Franceseとスペイン風のチャッコーナ Chiaccona Mariona alla vera Spagnola(1639年・Intavolatura di Liuto, et di Chitarrone II, 20-21 & 49-52)は最も古い形の一つです。ファルコニエーリ(Andrea Falconieri, 1586-1656)のAria sopra la Ciaccona(1616年)は最も古いですが声楽二声と通奏低音です。キタローネ(chitarrone)もしくはテオルボ(théorbe)のために書かれたピッキニーニのChiaccona in partite variate(1623年)がそれに次ぎます。サラバンドは和音の塊から旋律が流れ出て、撥弦楽器の重音によることが分かります。スペインやイタリアのチャコーナは低音定型(G-D-B-D)により、フランスのシャコンヌと異なり、定型音型が強烈に聞こえず和やかで軽やかです。特に最初期のイタリア出身のメッサンジョー(René Mesangeau, 1568-1638)に近いです。㉜クラウディオ・モンテヴェルディ(Claudio Monteverdi, 1567-1643)のチャコーナ Ciaccona. Zefiro torna e di soavi accenti(1632年・Scherzi musicali, 24-43・SV 251)では通奏低音にカナリオに近い固執低音が独特な雰囲気を醸し出し、デュオが模倣・平行・反行などを繰り返して緩急を持たせます。しかも、強弱(forte & piano)も指示され、ガブリエーリ(Giovanni Gabrieli, 1557-1612)の〈弱と強のソナタ(Sonata pian e forte)〉(1597年・Sacrae symphoniae・Ch.175)に見られるような分割合唱の対比技法への応用も見られます。マドリガーレ(madrigale)の通奏低音に固執低音を置き、カンティレーナ様式に伴奏を装着したレジタティーボから派生して、上の二つの旋律を模倣・平行・反行により増やした構造です。古い様式に新しい発想が盛り込まれていることが分かります。

㉝ジョヴァンニ・ジローラモ・カプスペルガー(Giovanni Girolamo Kapsperger, 1580-1651)のカナリオ Canario(1640年・Libro quarto d'intavolatvra di chitarone)はカナリア諸島の舞曲(Tajaraste)を起源とする快活な舞曲です。フランスのリュートや鍵盤楽器ではジーグ(gigue)と似てしまいますが、元来は低音主題による舞曲でした。トワノ・アルボ(Thoinot Arbeau, 1520-1595)が振付、プレトリウス(Michael Praetorius, 1571- 1621)も弦楽合奏を記録して舞踏を伝えます。カナリオの低音配列(G-G-C-D♯)は長音階(時に短音階)で現れて強進行(I-I-IV-V)をします。フランスのリュート音楽にも受け継がれ、老ゴーティエやデュフォーらも抒情的なカナリー(canarie)を残しました。変奏は音域の広いテオルボを生かして分散和音や重音奏法により、ギターやリュートが通奏低音を受け持ちます。㉞ジローラモ・フレスコバルディ(Girolamo Frescobaldi, 1583-1643)のフォリアによる変奏 Partite sopra Folia(1616年・F 2.16・Il primo libro di toccate, 63-65)は常に四声が鳴る中で細かい装飾、平行や反行、楽句の対比がなされ、和音が強く奏され引き締められ、絶えず変化があります。上下の動きが激しく出版された鍵盤楽器の二段譜表は七線や八線です。フラットへ向かい解決する終始は、後期ルネサンスから初期バロック音楽に見られます。フォリアの低音主題は十六小節(i-V7-i-♭VII-♭III-♭VII-i-V7|i-V7-i-♭VII-♭III-♭VII-i/V7-i)で各変奏の八小節に繰り返し変奏(ripresa)の八小節が置かれ、音価が細かくなります。奇数の変奏は長音価で対位法的でリチェルカーレ(ricercare)風ですが、偶数の変奏は走句が多くトッカータ(toccata)風で器楽的です。また、第三変奏ではコレンテ風、第四変奏はジーガ風で舞曲、第五変奏では古様式の声楽が意識されます。フランスのリューティストやクラヴサン楽派にも繰り返し変奏(reprise・double)の習慣が受け継がれました。

㉟ファン・アラニェス(Juan Arañés, c.1590-1649)のビリャンシコ Villancico à 4. Un sarao de la Chacona(1624年・Libro Segundo de tonos y villancicos, 22-23)はホモフォニックな四声で歌曲ですがフランスの穏やかなシャコンヌとは大違いでスペインやイタリアのチャコーナは快活でポリリズムも見られ、ラテン系音楽らしくリズミカルで明るいです。ルネサンス黄金時代のスペイン音楽はモラーレス(Cristóbal de Morales, c.1500-1553)やゲレーロ(Francisco Guerrero, 1528-1599)の時代から既に教会音楽でも長短音階が用いられ、世俗音楽では更に代理和音が多く、現代の和声法とほとんど変わりがないところまで近づいています。モダンな響きとリズムに溢れ、まるで数年前に作曲されたかのようです。㊱ビアジオ・マリーニ(Biagio Marini, 1594-1663)のパッサカリオ Passacalio à 3 & à 4(1655年・Per ogni sorte di strumento musicale, Opus 22/25)はヴァイオリン二提(violino primo & secondo)、ヴィオラ(viola [ad lib])、通奏低音(basso continuo)の四声による弦楽合奏で開始部(introduzione)、第一部~第三部(prima, seconda, terza parte)、終結部(finale)からなり、途中で軽く変奏がなされます。パッサカリアの下降音型(G-F-E♭-D)が静謐な雰囲気をなします。後期ルネサンスから初期バロック(特にベルサイユ楽派)の音楽では、フラットが多い調でシャープが現れてきて、気分が高揚させています。実際上、リュリの故郷であるイタリア北部の音楽がフランス・バロックの基礎となりました。

㊲タールキニオ・メールラ(Tarquinio Merula, 1595-1665)のルッジェロ Ruggiero à 2. Violini, & à 3 col Basso(1637年・Opus 12/8・Canzoni overo sonate concertate per chiesa e camera)も定型低音の変奏です。四声の弦楽合奏で上二声のヴァイオリンが互いに模倣・平行・反行して、旋律が絡み合いながら進み、ヴィオラの独奏もみられ、先ほどよりバロック音楽らしい音型や構造によります。通奏低音は数字符で書かれ、上三声の旋律に通奏低音で和声を与え、声部の対等性が破られ、独立性が生まれています。大きく二つに分けられ、最初に主題を提示して、次に上二声が模倣し合い、更に平行して動き、それからヴィオラ独奏に移り、また後半も同じ四部構成です。ルッジェロの低音主題の由来は諸説ありますが、アリオスト(Ludovico Ariosto, 1474-1533)の〈狂えるオルランド(Orlando furioso)〉(1516年)を歌曲にしたヴァルデラヴァーノ(Enríquez de Valderrábano, c. 1500-1557)の歌曲 Canciones. Ruggier qual sempre fui(1547年・Silva de sirenas)は似ていませんが、カベソンのRugier, glosado de Antonio(1578年没後出版・Libro de cifra nueva)、オルティスのRecercada Quinta PARS boz [Ruggiero](1553年・Trattado de Glosas)、トラバーチ(Giovanni Maria Trabaci, c.1575-1647)のPartite sopra Rugier(1603年)、カプスペルガーのRuggiero(1604年・Libro primo d'intavolatura di chitarrone)、フレスコバルディのルッジェロ Partite sopra Ruggiero G(1615年・F 2.35)が早い例です。㊳フランソワ・デュフォー(François Dufault, 1604-1672)のサラバンドと変奏 Sarabande [et Double]. Tombeau du Roy d'Orange(1694年頃・PL-Lw 1985, 42v-43r、1710年頃・A-Wn ms. 17706, 9v、1715年頃・A-GÖ ms. Lautentabulatur Nr. 2, 66v & 108v、CLFDuf N°66)は死者を悼むトンボーで和音が独特の雰囲気を醸し出し、細かい装飾や旋律が動き出す典型的なサラバンドで自由に装飾した変奏(double)を伴います。ルブリン写本(PL-Lw 1985)ではDoubleと表示されていますが、ウィーン写本(A-Wn ms. 17706)では表示されませn。ゲトヴァイヒ写本(A-GÖ ms. Lautentabulatur Nr. 2)では別々に書かれています。バルベ写本(1700年頃・F-Pn Rés. Vmb. ms. 7 (Barbe), 217)やダンビー写本(1711年・US-R Ms. Vault M2.1.D172 (Dunby), 81-82)にはDoubleがないですが、後者にはオランジュ公のトンボー(Tombeau du Roy d'Orange)と書かれています。オランジュ公ウィレム2世(Willem II van Oranje-Nassau, 1626-1650)で1650年の作曲と考えられます。サラバンドは重奏で和音が鳴らされて旋律でつながれますが、ドゥーブルは低弦から分散和音が沸き上がります。メヌエットにトリオを伴い三部形式となると同じく、ドゥーブルの後にまたサラバンドが演奏されます。

㊴ジャック・ガロ(Jacques Gallot, c.1625-1696)のスペインのフォリア Les Folies d'Espagne(1670年・Pièces de Luth, 71-77)はフォリアの主題を提示して変奏(couplet)を連ねて長大な変奏をする様式をリュートで確立しています。第一変奏は交互に演奏されて二つの声部が流れているよう、第二変奏は基本音を上に置き、同じ弦を叩いて同音の連打により、第三変奏は分散和音により、第四変奏は低弦を弾いてから、高音を連打する中に和音の塊を掻き鳴らしてリズムに変化を与え、第五変奏はヴァイスが好んだように高い弦を軽く附点音符を弾き、第六変奏は逆に低いところで和音をなして重く弾き、第七変奏は細やかな変奏に時どき歪んだ和音を与え、急速なシュライファー音型があり、第八変奏はメッサンジョーや老ゴーティエが好んだサラバンド風の重厚な四つの和音により、第九変奏は分散和音による上行とそれをブレーキのように受けた下降音型によります。㊵ルイ・クープラン(Louis Couperin, 1626-1661)のシャコンヌ Chaconne in F(1658年・F-Pn Rés.Vm7 675, 24r)は弦楽合奏やリュートの語法を鍵盤楽器に移した作で主題を含めて第五部からなり、ロンド形式により主題をリフレインして、左右で旋律が交互に現れます。ルイ・クープランは特に内声を用い上声部と下声部をつなぎ、上二声は平行和声をなし楽句を挟んで全声部に一体感を持たせました。主題を繰り返すとき、細かい装飾を伴います。特に校訂譜ではなく手稿本には細かいニュアンスが書き込まれており、和音の絶妙なずらしや旋律の連なりが分かります。それらはリュートなど撥弦楽器で発達した和音を砕くというブリゼ奏法(style brisé)によります。

㊶ジャン=バティスト・リュリ(Jean-Baptiste Lully, 1632-1687)の〈アルミード(Armide)〉(1686年・LWV 71,61)のパッサカーユ Passacaille d'Armide(1712年・Guillaume-Louis Pécour, Nouveau recüeil de danse de bal et celle de ballet, 79-86)はボーシャン(Pierre Beauchamp, 1631-1705)の門人ペクール(Guillaume-Louis Pécour, 1653-1729)による振付です。ラッベ(Anthony L'Abbé)の振付(1711年・Edmund Pemberton, An essay for the further improvement of dancing)も伝わります。ルイ14世(Louis XIV, 1638-1715)の宮廷で様式を確立した宮廷舞踏は現代のバレエの直接の先祖ですが、フイエ(Raoul-Auger Feuillet, c.1660-1710)の《コレオグラフィ、或いは人物・図形・指示記号による舞踊記述法(Chorégraphie, ou L'art de décrire la dance par caracteres, figures et signes desmonstratifs)》(1700年)の規則で5つの基本ポジション(Position des pieds)とステップ(pas)の軌跡が記録され、舞踏を完全に復元でき、音楽の表現と舞踏の動作を対照できます。特にパッサカリアは女性用の舞踏譜として最高難度でステップも複雑です。パッサカリア(passacaglia)の語源はスペイン語の「歩く」(pasear)、「通り」(calle)でしてトニックとドミナントとサブドミナントの連結からなる簡素な楽曲でしたが、フランスで下降音型による三拍子の荘重な舞曲になりました。フランスの宮廷楽団はイタリアの四声の弦楽合奏に内声を拡張して、五声(dessus・haute-contre・tailles・quintes・basses)になりました。㊷ベルナルド・パスクィーニ(Bernardo Pasquini, 1637-1710)のベルガマスカと変奏 Partite diversi (24) di bergamasca in C(1702年・D-B Mus. ms. Landsberg 215, 340)は、四声が暗に意図されフレスコバルディ以来の伝統を感じさせますが、左右で対話するように音型を繰り出したり、音型を変更してリズムに変化を与えて快活に長大な変奏を繰り広げており、ドメニコ・スカルラッティ(Domenico Scarlatti, 1685-1757)の初期作品とよく似ております。ベルガマスカの低音配列(G-C-D♯-G)で長音階(時に短音階)で現れて強進行(I-IV-V-I)をします。陽気な順次上行など当時のイタリア北部によく見られる動きをしています。また、イタリア式ジーガ(giga)の8分の6拍子のリズムを取り入れてもいます。

㊸ディートリヒ・ブクステフーデ(Dieterich Buxtehude, 1637-1707)のアリアと変奏 Aria. La capricciosa, partite diverse sopra una aria d'inventione(1680年頃・BuxWV 250)はドイツ語民謡〈キャベツとカブが俺を追い出した/母さんが肉を料理すれば出て行かずに済んだのに(Kraut und Rüben haben mich vertrieben. Hätt’ mein’ Mutter Fleisch gekocht, so wär’ ich länger blieben)〉を変奏しています。主題は大バッハのゴールドベルク変奏曲の第30変奏のクオドリベットにも織り込まれ、32部分構成も間違えなくゴールドベルク変奏曲(アリア+30の変奏+アリア)のプロトタイプとなりました。変奏の音型や配置、特に最後にトリルや和音連打などで盛り上げるところもよく似ております。例えば第3変奏は第17変奏、第10変奏は第20変奏、第23変奏は第28変奏、第26変奏は第23変奏などと発想が同じです。第12変奏は幻想様式(stylus fantasticus)です。最晩年の1705年に訪問した大バッハはこの変奏曲を知り得た可能性が高いです。(㊹ド・ヴィゼー(Robert de Visée, c.1650-1725)のシャコンヌ Chaconne en sol majeur(F-B ms. 279152 [Saizenay I], 288-289)はテオルボの固執低音による変奏で特徴的なリュリ様式で下降音型(G-F#-E-D)が低弦で演奏され、和音が掻き鳴らされ、旋律が紡ぎ出され、響きがモダンです。テオルボは胴が長く音域が広く、低弦で深みある音が鳴るため、旋律と通奏低音を明瞭に分離して演奏でき、数台の楽器のように聞こえます。典型的なシャコンヌのため割愛しました。)

㊺アルカンジェロ・コレルリ(Arcangelo Corelli, 1653-1713)のラ・フォリア La Follia(1700年・Opus 5/12)はヴァイオリンのために書かれたフォリアの定型低音による主題を含めて24の変奏、㊻マラン・マレ(Marin Marais, 1656-1728)のラ・フォリア Couplets de folies(1702年・Pièces de viole, Livre II, 20)はヴィオールのために書かれたフォリアの定型低音による主題を含めて32の変奏です。通奏低音が古典韻律における長短格のトロカイオス韻律(choreus)からなり、低音主題は十六小節からなり、i-V-i-VII-III-VII-i/V-iを反復して、半終止と完全終止が使われ、執拗音型は四分音符・符点四分音符・八分音符によります。特にフランスではフォリアにフイエとペクールによる舞踏譜が残されています(Raoul-Auger Feuillet (c.1700). Folies despagne de Mr Feuïllet [F-Po Rés. 817 (24), 51-59]; (1700). Chorégraphie, 102. Couplet de Folie d’Espagne aves las bras et la batterie des castagnettes, pour faire connoistre comme on doit pratiquer les regies precedents.; (1700). Recüeil de dances, 33-38. Folies d’Espagne pour femme、Louis-Guillaume Pécour (c.1700). Folies d'Espagne de Mr de Pécourt mise en choréographie par Mr Feuiller [F-Po Rés. 817 (12), 97r-100v]; (1704). Recüeil de dances, 221-224. Folies d’Espagne pour homme)。それらの舞踏譜により、マレによる様々な変奏や細密な装飾は足や手の動きに合わせて音型の特徴が作り込まれていることが分かります。また、コレルリやマレのフォリアを通じて、長く舞踏を続けるため、定型の低音を変奏する技法などが実用の中から様式が発達したことが分かります。特に通奏低音にてフォリアの定型低音がよく示されており、数字符のリアリゼーションにより伴奏が付けられる明快な構造です。

㊼ヘンリー・パーセル(Henry Purcell, 1659-1695)の全音階によるグラウンド A Ground in Gamut(1680年代・Z. 645・GB-Och 46, 64r)は大バッハのゴールドベルク変奏曲と同じく「グイドの手」にソ(Γ)をド(ut)とする移動ド法(Gamma ut / Γ ut)に由来する長音階(gamut)による六音(ut, re, mi, fa, sol, la)からなるヘクサコルド(hexachord)主題です。バッハのゴールドベルク変奏曲のサラバンド風アリアと冒頭の低音の分散音型が似ています。パーセルはホモフォニックな書法を好み、後半は大バッハの原型が分からないほど内声が込み入るポリフォニックな書法とは異なります。ゴールドベルク変奏曲の第20変奏と似た変奏もあります。㊽ヤン・ディスマス・ゼレンカ(Jan Dismas Zelenka, 1679-1745)の9つのカノン 9 Canoni(1721年・ZWV 191・Collectaneorum Musicorum Liber III, 329)は九度から同度まで下るように配列された下方に旋律を配置するカノンです。大バッハのゴールドベルク変奏曲の3の倍数の変奏に置かれたカノンと似ています。上二声がカノン、最低声が通奏低音をなしている構造も同じます。四声のカノン Canon 'Emit amor' à 4(1723年・ZWV 178・Collectaneorum Musicorum Liber III)が記される楽譜帖にはパレストリーナのミサ曲が筆写され、ゼレンカは古様式(stile antico)の対位法をよく研究していました。七声協奏様式による序曲 ヘ長調 Ouverture à 7 concertanti F-Dur(1723 年・ZWV 188・D-Dl Mus. 2358-N-6)は五和音を鳴るといきなりシュライファー音型で上昇して、符点リズムで下降して幕開けするモチーフを提示する個性的な序曲ですが、大バッハはこの作品をドレスデン訪問(1725・1731・1733・1736・1738・1741年の六回が知られます)で知り、ゴールドベルク変奏曲の第16変奏(1741年・Clavier-Übung IV・BWV 988・Goldberg-Variationen. Variatio 16)で採用したと考えられます。バロック音楽の爛熟期で音型が豊かになり、リズムの密と疎対比、上声と下声の重と軽の対比、独奏と合奏が交替するコンチェルトも加味されます。フガートでも管弦楽器が対話したり、平行和声でオブリガート声部として強調したり、反行形で経過和声を使い、何度も転調を重ねながらゼクエンツを繰り出して、荘厳な開始部に戻りますが、ゼクエンツで回想するようになり、アダージョで速度を落として、別れを惜しむように短調に一瞬転じて主調で終わり、多彩なな組み合わせを楽しめます。

㊾ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(Georg Friedrich Händel, 1685-1759)のシャコンヌ Chaconne mit 62 Variationen G-Dur(1717年・HWV 442・1732年・Suites de Pièces)は伝統的なシャコンヌの下降音型の低音主題によらず、パーセルや大バッハと同じくヘクサコルド主題の下降音型による変奏曲です。低音主題が聴こえる程度に分散音型や分割変奏、和音連打や協奏様式で短い変奏をメドレーのように連ねます。変奏内で同じ手法を取り、次々へと連ねてゆくため、音楽鑑賞というより舞踏伴奏という実用に近いと思われます。初期稿と思われるシャコンヌ Chaconne mit 21 Variationen G-Dur(1705年・HWV 435、1720年頃・D-DS Mus ms. 1231, 84v-87r)も伝わります。大バッハもこの変奏曲の出版譜を所蔵していました.㊿ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach, 1685-1750)のゴールドベルク変奏曲 Goldberg-Variationen(1742年・BWV 988・4. Teil der Clavierübung)のアリア(サラバンド)もヘクサコルド低音主題(G-E-F-D-C-B-C-D-Gamut)の基本低音配列(Fundamental-Noten)で和音を指定して32小節で多様なリズム音型や和声付けの分散やオブリガート声部の内声により、ホモフォニックとポリフォニックの交替をして、絶えず変化するように工夫しました。ヨハン・クリストフ・バッハ(Johann Christoph Bach, 1642-1703)のサラバンド Sarabande. Duodecies variat:(D-B Mus.ms. autogr. Knüpfer, S. 1. olim: D-B Mus.ms. Bach P 4/2)も下敷きにしています。同じ基本低音配列で〈前のアリアの最初の8音の低音主題に基づく種々のカノン(Verschiedene Canones über die ersten acht Fundamental-Noten vorheriger Arie)〉(1746年頃・BWV 1087)を生みました。モダンジャズの16小節の主題から和声進行を抽出して、即興演奏を展開してゆく発想は、大バッハのゴールドベルク変奏曲で歴史的に完成されたといえます。

中世以来カノンや変奏法は常に互いを支え合いながら、時代の様式に良く従いながら、音楽の構造や作曲の発想が脈絡と受け継がれてきたことが分かります。帰りの電車の中での会話でカノンとフーガの違いについて話題がありました。実は長らくカノンとフーガは殆ど同じように使われていました。カノン (canon) の語源は古典ギリシア語の規範(κανών)で旋律を(何倍の速さで歌え、何度の上を歌え、反対から歌え、鏡像を歌えなど)規則に従い重ねました。フーガ(fuga)の語源はラテン語で逃げる(fugere)で追いかけて歌うカノンを指していました。ツァルリーノ(Gioseffo Zarlino, 1517-1590)の《調和概論(Le Istitutioni Harmoniche)》(1558年)やスウェーリンクの《作曲の規則(Composition Regeln)》(1657年)はカノンを説明しますから、フックス(Johann Joseph Fux, 1660-1741)の《パルナス山への階段(Gradus ad Parnassum)》(1725年)や大バッハの〈フーガの技法(Die Kunst der Fuge)》(1742年頃)あたりの近代の対位法の理論書から、主題(dux)と応答(comes)と対旋律(contrapunctus)を備えたフーガと厳密に区別されるようになりました。その間の特に北ドイツ・オルガン楽派(Norddeutsche Orgelschule)の巨匠たちが前奏曲(Praeludium)やトッカータ(Toccata)で定着させた様式を特に(狭義で)フーガと呼ぶようになりました。ブクステフーデや特に大バッハの作品を通して、対位法の基礎とされる内容は、実は欧州や歴史の全体から俯瞰しましたら、極めて特殊な例と分かります。

実は中世から近世までの対位法や和声法の理論書にも興味があり、有名どころを通読しましたが、第一級の実作は発想や感激が豊かで規則に縛られない自由があります。文法書の規則に通暁しても、外国語を自由に操ることができないよう、本物に触れることが大切でそれに勝るものはないと思います。アイディアの内容を説明して専門用語を用いませんでしたが、中世からルネサンスでは同度カノンがほとんどでして、マショーは逆行カノン、チコニアやオケゲムは異なる比率や音程のカノン、デュファイは二重カノンとテノール声部を入れればフーガに近いカノンの例でした。ジョスカンは通模倣様式でフガート(軽い模倣)をよく使い、ブルゴーニュ楽派のシャンソンで使われ出し、それ以降のフランドル楽派など、ルネサンス期の多声音楽では主流となりました。厳密すぎる模倣の音楽は書きにくいですし、職人技としては面白いですが、実際上、そこまでこだわらなくても美しい音楽を書けますから、妥協的なフガートが良く使われました。音楽の構造の変遷を連続して考察すること、即ち音楽そのものを主眼としておりますため、人物や楽器の説明などはバッサリと切り落としました。個性的な音楽界になり、主題がはっきりして良かっあとご評価下さり意図が伝わりまして嬉しかったです。個人的に音楽家の人生にも強い興味があり、楽器の変遷もまたいつか取り上げられましたら幸いです。

また、今回の音楽サロンを準備するとき、50作品を用意しましたが、実はその手稿本や音楽家の他のほぼ全ての作品を網羅的に調べ、周りも深く掘り下げて用意いたしました。また、「多声音楽の感覚で器楽作品をイメージできる」という話も、実は器楽作品は記録があるところによれば、教会音楽のモテット、世俗音楽のシャンソンを器楽化した作品が初期作品の大多数を占めており、多声音楽の表現を何とか楽器で表現したいという欲求から、器楽が徐々に豊かになりましたことが分かります。限られた時間で細かい根拠まで一つずつ説明することは適いませんが、実は裏付けを念入りにして、自分の勝手な感覚や特殊な事例に偏らず、できる限り広く多くの資料を通じて、当時の人たちがどう思考して感受していたかに迫ることを目的としております。事実や発想を正しく認識した上で自分の意見をなして創造をできるからです。

以上が各曲の詳細です。音楽の構造が似ているため、⑬⑲㉓㊹は直前に割愛しましたが、無事に全作品をお話しできました。時代性や地域性、音楽家の個性や同時代流行などにより、表現方法は多種多様ですが基本構造は一貫しており、欧州全土で記譜法や演奏法のコンセンサスが取れていたことは驚くべきです。文化はある程度の独自な集団とそれら相互の交流が完全に一体にならない程度あることにより、相互に刺激を与えながら展開されることが分かります。前例の記録が蓄積され、ある時に廃れた発想や流行が別の時に新しさを感じられて蘇ることも分かります。時代や地域を簡単に区分できず、実際はより複雑で様々な場所で試行錯誤がなされ当時の人が良いと感じた発想が広まり流行や時代を作り上げられました。西洋音楽は大量の楽譜や文献の資料が残された分野で文化の創造・発展・継承の過程を追跡して系譜を構成する最良の条件が揃うことを再確認できました。今後とも色んな観点を見つけて探究してまいりたく存じます。

第一部に午後9時まで音楽会、第二部に午後11時まで食事会をいたしました。多くの方がご参加くださり、ご忌憚なくご意見やご遠慮なくご質問なども頂けまして、有意義な時間となりました。やはり、音楽界の興奮が冷めやらないうちに色んな意見を交換できます機会は重要に感じられ、今後ともこのように皆さまと楽しんでまいりたく存じます。

今後とも何とぞ宜しくお願い申し上げます。長文をお読み下さり感謝申し上げます。今回もおかげさまでアットホームでエキサイティングで心温まるひと時を持てまして、安心して年を越すことができます。ありがとうございました。今年も残りわずかとなりましたが、皆さまも楽しい年の瀬をお過ごしになり、良いお年をお迎えください。

ギヨーム・デュファイ(Guillaume Dufay, 1397-1474)の四声ミサ曲 Missa Ave regina caelorum à 4(1472年・B-Br MS 5557, 110v-120v)の写本と訳譜

全ての作品は当時の記譜と現代の楽譜を対照させて、原型を大切にして当時の発想を重視しました。

マラン・マレ(Marin Marais, 1656-1728)のフォリア Couplets de folies(1702年・Pièces de viole, Livre II, 20)と宮廷舞踏

2019年12月6日

いつもありがとうございます。二週間後になりました。現在は今月二十日の音楽サロンに向け、毎日、手写本・印刷譜・音源・資料などを整理して入念に用意しております。

今回の主題は、音楽の構造、特にカノンと変奏曲です。そうした技法や発想がいかに受け継がれたかの分析を通じて、西洋音楽史を中世から近代まで横断的に把握できます。

音楽への理解と愛情が一段と深まる貴重な機会となります。ご友人といらして下さりましたら幸いです。本年も残りわずかとなりましたが、お元気にお過ごしくださいませ。

中世後期からルネサンス音楽への道を開いたイングランドの天才音楽家ダンスタブル(John Dunstable, c.1390-1453)です。安定した響きと和音の切り替わりが最高です。

John Dunstable: Veni sancte spiritus / Veni creator spiritus mentes / Mentes tuorum visita à 4(I-MOe MS α.X.1.11 (Modena B), 109v–111r & 134v–135r; I-TRbc MS 1379 (Trento 92), 182v–184r; I-AO 15 (Aosta), 276v–279r; GB-Lbl Add. MS 57950 (Old Hall), 55v–56r)

John Dunstable: Salve scema sanctitatis / Salve salus servulorum / Cantant caeli à 4(I-MOe MS α.X.1.11 (Modena B), 126v–128r)

John Dunstable: Specialis virgo / Salve parens à 3(I-MOe MS α.X.1.11 (Modena B), 83r; I-TRbc MS 1379 (Trento 92), 137v–138r)

John Dunstable: Quam pulchra es et quam decora à 3(I-MOe MS α.X.1.11 (Modena B), 83v–84r; I-TRbc MS 1379 (Trento 92), 110v–111r; I-AO 15 (Aosta), 188v–189; I-Bc Q.15, 313v–314r)

2019年12月15日

いつもありがとうございます。今週の金曜日の音楽サロンまであと5日となりました。

今回も長い時間と熱い情熱をかけ、西洋音楽の基本構造を理解するかけがえのないエキサイティングな会となりますよう資料を整理して準備してまいりました。ご友人とお誘い合わせ下さりましたら幸いです。

音楽サロンの後、皆でタクシーで移動して、湯島にあるda GIORGIOというピザ屋さんでお食事します。数日前までに人数を確定して予約をお取りしますので、もしご一緒くださります方はご一報くださいませ。

皆さまにお会いできますこと、心から楽しみにしております。ありがとうございました。

Cantigas de Santa María de Alfonso X el Sabio
(1284年頃・E-E Ms b. I. 2 (j. b. 2) (Códice E)・Cantiga n.º 320)

2019年12月19日

いつもありがとうございます。いよいよ明日になりました。午後6時少し前からお部屋でお話しできます。当日は楽譜や資料をプロジェクターで投影して、音楽を聴きながら実況中継でおしゃべりいたします。

年末の特別な企画で西洋音楽が確立された600年を概観でき、音楽の構造や発想へ理解を深められる貴重な機会です。ご友人とお誘いあわせの上、ぜひいらして下さい!飛び入り参加も遅刻や早退も大歓迎です。

お写真好きな方は記念になりますので気に入ったときお撮り下さると嬉しいです。音楽サロンではお互いにお気づかいの必要なく楽しめましたら幸いです。明日お目にかかりますこと、楽しみにしております。

中世写本を調べていましたら、合唱する修道士の後ろで上を向いた変わった人が、フランスの国立図書館とイギリスの大英図書館にある両写本で見つかりました。顔の特徴と角度から同一人物と思われます(笑)

左:F-Pnm Français 159, 277v(1395-1400年頃)、右:GB-Lbl Harley 2971, 109v(1450-60年頃)

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